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ポール・サイモン『ソングライター』と柴門ふみの寄稿について

ソングライター

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時系列順に彼の曲を並べた2枚組のコンピレーション・アルバム。
「サウンド・オブ・サイレンス」から始まり「ソー・ビューティフル・ソー・ホワット」で終わる、本人選出の32曲を収録している。

彼のソロ・アルバム発売権の全てがソニーに移ったことで、企画されたそうだ。

アマゾンのレビューなどを読むと、曲のセレクトについては“ベスト”“ヒット曲集”というには首をかしげたくなるという意見が多い。
コアなファンとはいえない私ですら同じような感想を抱いた。

ただ、曲の流れが悪くないので、違和感なくすんなりポール・サイモンの遍歴をたどることができるアルバムにはなっている。
地味だが私の好きな曲「遥かなる汽笛に(The Train in the Distance)」も収録している。
ただ、初心者向けのヒット曲集ではないし、そうかといって何度も聴いた曲をアルバムから持ってきただけなので以前からのファンが聴くには新たな聴き所はない。
誰が聴くのだろうという感じではある。
まあ、これが出たのは契約上の都合もあるのかもしれない。

実は彼のベスト盤は以下のものを買っていた。
ネゴシエーションとラブソングス(Negotiations and Love Songs)』
『ボーン・アット・ザ・ライト・タイム(Born at the Right Time)』
『グレイテスト・ヒッツ シャイニング・ライク・ア・ナショナル・ギター(Greatest Hits Shining Like a National Guitar)」
『ジ・エッセンシャル(The Essential Paul Simon)』

多作な人ではないので、出るとなんとなく買ってしまっていたのだ。オリジナル・アルバムも聴いていたのに。
コンピレーションとして選曲に癖がある『ネゴシエーションとラブソングス』は何度も聴いたが、ほかのベストはあまり聴いていない。

ちなみに、
彼のキャリアの総括という意味で、お勧めできるのはソロ・ライブ『ライヴ・イン・セントラル・パーク』ではないかと思う。S&Gの方ではありません。
ニューヨークのセントラル・パークに何十万人という人を集めて行ったコンサートを収録したものだが、演奏もポールの歌も本当に素晴らしい。
私は、彼のキャリアのひとつの頂点となったライブではないかと思っている。
もう資料が手元になく、ウェブを検索したが、あまりこのライブに触れたものがない。
映像もLDで出ていたらしいが、私は未見だ。いつか見たいと思っている。
DVDを出してほしいところなのだが。

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ポール・サイモンとは直接関係関係ないが、日本版ブックレットを読み、ちょっと思うことがあった。

日本語版ブックレットには柴門ふみの原稿が掲載されている。
有名な話だが、彼女のペンネーム“柴門”は、ポール・サイモンの名前から取られている。

彼女のごく初期の作品は、作者を投影したと思われる過剰な自意識を抱く主人公(諸事情によるのだろうか、男性が多い)が登場、
退屈で保守的な田舎町で自分を持て余し、七転八倒する話が多かったと記憶する。
そして主人公の“救い”としてサイモン&ガーファンクルの音楽が登場していた。と思う。
(あまりに遠い過去であり、もはや彼女の漫画は手元にないので、ちょっと記憶に自信はないが)

この原稿で彼女はこんなことを書いている。
“生まれ故郷の四国で、退屈で、いいことなど何もない10代を過ごしていた私にとって、S&Gの音楽は唯一の生きる糧であり希望であり憧れであった。”

当時の彼女の作品では主人公が妄想にひたり、憧れの人物と会話を繰り広げるというパターンがあったように記憶しているが、それについてこんなことを書いていた。

“あまりにポールに同一化してしまった結果、私はどういう状況でどんなセリフを口にするか想像できるようになってしまっていた。思えばこれこそ、私が漫画家になれた原点でもあるのだ。私は、のめりこんだ対象に同一化して、そのセリフが口をついて出る能力を、ポールを介して身に付けたのである”

遠い昔に読んだデビュー間もないころの彼女の漫画のことを思い出してしまった。
確かにそうだった。もう、30年くらい前の話だ。