見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

三浦しをんの小説「風が強く吹いている」

風が強く吹いている

風が強く吹いている

三浦しをんの小説を読むのはこれで3冊目。
以下、ひじょうにまとまりのない感想メモ。とりあえずアップする。

2006年刊。単行本で500ページに及ぶ長編。
雑誌に連載されていたものと思っていたが、どうやら連載でなく書き下ろしのようだ。
気合の入った小説だった。

設定は荒唐無稽といっていい。

今まで長距離走の訓練をしたことのない、たまたま大学の寮にいた人間が半年程度の練習で箱根駅伝出場を実現、さらに箱根では他大学を圧倒する走りを展開する。
そんなことがあるわけがない。

しかし、読んだ感想としては、この500ページで展開する文章の力が、その設定を乗り越えて強い説得力を持たせている。
小説の中に読むものを引き込み、納得させる力があるのだ。
読んでいるうちに荒唐無稽なことを忘れ、作品の世界に没入してしまう。

アマゾンの読者レビューを見ると、長距離走者だった複数の人が、この作品に感動したと書いている。
私も、高校のときに助っ人(人数稼ぎ)ながら駅伝に参加したことがある。
自分の乏しい経験からも、読みながら、あり得ない設定と思った。
メンバーには運動音痴の“王子”もいるのだ。

この無理な設定を一体どう着地させるのかと思いながら読んでいた。
だが、読み進めるうちにそんなことを忘れて作品の中に入り込んでいった。

私が信じているテーマ「空想(妄想)は現実を超える力をもつ」ということを感じさせてくれたうれしい小説だった。

この小説の中に、主人公の走(かける)は走るために生まれてきたと書いている場面があったが、三浦しをんは“書くために生まれてきた”といっていいくらいのずば抜けた筆力、そして作品に理念をしっかりと込めることのできる志を持つ作家だと思う。

読みやすく、テンポよく進む文章。各章ごとに読みどころをつくったメリハリのある構成、クライマックスの盛り上げ。物語の人物配置のバランスのよさ、登場人物のキャラ設定とそのキャラの小説の中での出し方。人物間の絡み。関係性の変化。
などなど、小説として“やるべきこと”を織り込んでいる。
そして文章でひとつの世界を創り、そこで起きた物語を始まりから終わりまでをきっちりと“描ききった”小説だ。
若干、出だしの情景描写に多少違和感を感じることがあるくらいだ。これは私の好みの問題かもしれない。また構成上、説明しなければならないところもあるので仕方ないのかもしれない。

そして、多分この作家の作品で私が一番惹かれる点は以下のようなことではないかと思っている。まだ3作しか読んでいないが、そんな気がする。

                                                                                                                                                • -

小説の中で魅力的な世界を作り、そこに魅力的な人間を配置して、物語をつむいでいく。

                                                                                                                                                • -

そして、不思議なことなのだが、この人の小説を読んでいると漫画を連想してしまう。

今回は「あしたのジョー」だった。
カケル(蔵原走)が矢吹ジョー
ハイジ(清瀬灰二)が丹下段平である。
力石徹はいない。
ジョーと段平の関係を原型をとどめないほど改変して、テーマを駅伝に落とし込んだ話という風に私は連想してしまった。
これは相当に癖のある連想なので、私と同じ感想を持つ人はほとんどいないと思う。
でも灰二という名前はジョーの最期を連想させる名前ではある。
ジョー的要素、段平的要素を2人で入れ替えたりしているのだ。
この小説では主人公カケルは万引き犯として登場するが、普通、主人公に共感を持たせることを考えるなら万引き犯にはしないでしょ。
これは主人公ジョーが初めは窃盗を繰り返していた「あしたのジョー」へのオマージュである、などとすると書きすぎですかね。
なぜかこの小説の中で「あしたのジョー」の内容について王子が語るシーンもある。
強引なのは承知しているが、そんな連想をした。


いつも以上にうまく書けなかった。機会を見て更新する予定。
この小説に対するブログの数にまたもや驚いた。

風が強く吹いている (新潮文庫)

風が強く吹いている (新潮文庫)