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映像、書物、音楽などについての感想

キャメロン・クロウ監督、マット・デイモン主演の映画「幸せへのキセキ」

キャメロン・クロウ監督の「あの頃ペニー・レインと」は割と好きな映画だった。

甘いところはあるのだが、気に入ったのがレッド・ツェッペリンの曲の使い方。
何曲も流れたが、どれもすごく映像にはまっていて各曲の輝きが伝わってきた。

監督が元ロック・ライターということは知っていたので、きっとゼップの大ファンなのだろうと思い、好感を抱いた。

脚本を担当した「初体験/リッジモント・ハイ」以降、何作かは見ている。
パール・ジャムのドキュメンタリー、オーランド・ブルームが主演した「エリザベス・タウン」は見ていない。
トム・クルーズ主演の大作「バニラ・スカイ」以降は見ていないので、この人の作品を見たのは10年ぶり以上だ。

で、今回の新作「幸せへのキセキ」。
実在するイギリス人のライターの実話を映画化したものだという。
動物飼育のことなどまったく知らないライターの男性が、田舎にある閉園中の動物園付きの家を購入、動物園再開を成功させるという話だ。

ちなみに音楽担当はなぜかシガー・ロスのヨンシー。

幸せへのキセキ

幸せへのキセキ

で、見た感想メモ。
この映画、先週見た「ダーク・シャドウ」以上に見ていて違和感を抱いた。

スカーレット・ヨハンソンら動物園のスタッフが登場するが、彼らの飼育員としてのプロ意識は低すぎるのではないだろうか。
映画では動物園でどんな動物をどのくらい飼っているかの説明はない。
とりあえず、トラ、ライオン、グリズリーと脱走したら大変なことになる動物を多数飼育していることはわかる。

だが、開園までのわずか数ヶ月で大蛇の群れは逃げ出し、グリズリーはいつの間にか住宅街に逃亡(スタッフは脱走したことに気付いていない!)、ライオンのケージ(杭と呼ぶそうだ)の出入り口の鍵(ドア)は壊れるという、大いに保安体制に不安な状況なのだ。
今年の4月に、日本のクマ牧場で脱走したクマが女性2人を殺した事件の記憶がある私は、これらのずさんな保安体制を見て、気持が引いてしまった。
アメリカの田舎がおおらかにしても、ここまでおおらかだと危険すぎるし、周辺住民に被害が及んだらどうするつもりなのだろう、などと思ってしまった。
検査官が開園を認める前に、物語の盛り上げのために「(この動物園は)うまくいかないね」と言うのに、変な意味でリアリティーを感じてしまった。

現実にあったにしても“素人が動物園を再興する”というリアリティーのないお話を見るものに納得させるには、きっちりとしたモレのない構成、描写が必要だと思う。
違和感をもつ描写があると、見る者が物語に白々さを感じてしまう。
主人公と死んだ妻との関係についても、あまりに綺麗すぎるという気もした。

今月見たジョージ・クルーニー主演の「ファミリー・ツリー」では、植物状態になった妻が浮気していたことを知り、主人公は葛藤、七転八倒する。
そして衰弱するだけで回復の見込みのない妻を看取ることを決め、生命維持装置を外す際に妻に対してこう別れを告げる。
「(お前は)私の苦痛(My Pain)、そして私の喜びだった」(英語については未確認)

Goodbye, my love, my friend, my pain, my joy
といっていたようです。


↓「ファミリー・ツリー」の感想メモ
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120604/1338777539

この言葉のような深みのある描写はない。
幸せへのキセキ」では美化された輝くような過去しか描かれない。

ホロリとさせられるところはあったが、感情移入するまでには至らない映画だった。
甘すぎではないのだろうか。ここまでくるとちょっと……という感じだ。

こんなところだろうか。

ほか、興味深かったこと。

◆「宇宙兄弟」で使われていたシガー・ロスの「ホッピポッラ」がヨンシー・バージョンとしてここでも使われていた。片方は月で、もうひとつはアメリカの田舎の動物園。両方クライマックスで使っている。変なこともあるものだと思った。

◆サルを肩に乗せている動物園スタッフの青年、この人「あの頃ペニー・レインと」でツアーに同行する少年ロック・ライターを主演したパトリック・フュジットだった! すっかり大人になっていた。

◆映像的には“光”に注意している映画のようだった。やたらハレーションが出てくる。木々の下に注ぐ木漏れ日、窓から注ぐ光と影などなど、見ていた私は妙に“光”が気になった。

◆主人公の息子の名前(ファーストネーム)はディラン。確か映画の中でボブ・ディランの「雨のバケツ(Buckets Of Rain)」ほかが流れていたと思う(未確認)。ただ、ディランという名前はボブ・ディランでなく、ディラン・ドッグからとったと語っていたような(あやふやな記憶)。「ディラン・ドッグ」で検索したら、イタリアの漫画だった。

セリフを書き写したサイトを見たらまったく違っていた。

Dylan Mee: Plus, I wasn't names after Bob Dylan. I was named after a dog named Dylan.
ボブ・ディランでなく、ディランという名前の犬にちなんで名づけられたようです。

失礼しました。
↓「幸せへのキセキ」のセリフ引用サイト
http://www.moviequotesandmore.com/we-bought-a-zoo-quotes-2.html#.T-1ynRe0D8k

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これを書いた後でキャメロン・クロウは2010年にナンシー・ウィルソンと離婚したということを知った。
そうかー。
それを思うと商業作品としては破綻はしていないので、過度の甘さも非難できない気もする。
あと、こういう芸風(作風)の人だったんですよね。忘れてました。