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貴志祐介の小説「新世界より」

新世界より (上)

新世界より (上)

新世界より (下)

新世界より (下)

この作家は何冊か読んでいる。

性悪説の世界観が色濃い物語は、読んでいるとき、そして読み終えたときになんとも嫌な気分を呼び起こすのだが、逆にそこがマゾヒスティックな喜びを呼んだりもする。

また、時々洩れ出てくる“変態性”も気色悪いのだが、そのことが作品に独特のテイストを加えている。その部分については受け付けない人もいるような気もするが。

作者は1959年生まれ。作品タイトルに“クリムゾン”“悪の教典”という言葉があるところからすると、プログレ好きだったのではないかとも思われる。
年代的には私よりは若干上だが、なかなか興味深い作家だ。

といってもファンというほどではないので、作者については京大を出て生保会社のサラリーマンを経て作家になったくらいのことしか知らない。今回、文庫版のあとがきを読んだら、元々はSFを書いていたようだ。

で、小説「新世界より」の感想メモ。

この小説は以前から読みたいと思っていた。
上下巻でトータル1000ページを超える大作だ。
だが読み始めると、第2章以降はいいテンポで読むことができた。
読み始めたときは1章のテンポがあまりにゆるいので、どうしたんだろう? と思いながら読んでいた。だが、読み終えてみると、あえて第1章で事件を起こさず世界設定だけを描いたことに作者の並々ならぬ自信と意欲を感じた。さらに、第1章が平穏であっただけに、第2章での怒涛の展開が強いインパクトをもって伝わってきた。静と動のコントラストを意識したのかもしれない。

私には神話の構成を意識しながら書いた小説と思われた。
1章にひとつの季節を割り当てて四季を一巡させてという構造、上下巻の上巻の終わりで、重要な事件が起きることなど。死と再生といったサイクルを意識した物語というものを感じた。

この作品、
今から、1000年後、念動力(ここでは“呪力”といわれている)を持つ人類が暮らす日本を舞台にした小説である。
今どきの小説によくある「現実から始まる“ちょっと非日常”」でなく、いきなり現実世界から大きく隔たった世界から物語が始まっている。

この作家は多数の読者を意識して書いている人だと思われるのだが、現実からかけ離れた世界から物語を始めることは、“つかみ”としては弱いところがあるので、なかなかチャレンジングなことだったと思われる。しかも第1章では事件を起こして物語を展開させる作りにしていない。ハリウッド映画のように冒頭10分以内に大事件を起こせ、という鉄則を無視した作りである。
そしてテイストとしては、受けのいいファンタジーではなくSFといっていいだろう。
このあたりからも作者の気合みたいなものを私は感じた。

この小説はこの言葉で終わる。

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想像力こそがすべてを変える。

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そして、なぜか太文字になっている。
唐突感があるが、作者の心情吐露というものを感じた。

想像の力業で構築した壮大な作品だと思う。

小説の内容については触れないでおく。
ただ、この小説、色々と伏線めいたことが配置されていたので、続編を書く可能性はありそうだ。
すでに、呪力能力者が生まれた時代のことも書くかもしれないとインタビューで語っているそうなので(文庫版の大森望あとがきより)、年代記ものとして、作者のライフワークになるのかもしれない。

以下の時代で充分に作品は書けると思う。
・呪力能力者誕生の時代
・呪力能力者VS旧人類の時代
・呪力能力者の専制政治時代
・専制時代の崩壊
・「新世界より」以降の時代
まあ、映画“猿の惑星”みたいなもんですかね。

ちょっと違うか。
ただ、これだけ書けば壮大な物語になるだろう。
読んでみたい。

アマゾンの書評をちらっと見たら「漫画で超能力ものを読んでいる私としては、この小説は稚拙に思えた」と書いていた人がいて驚いた。
どっちが上というのではなく、構築している世界が違うでしょ。
人のレビューを批判するのはしたくないが、あまりに的外れで誤解を招くものなので指摘させてもらう。

後日「HUNTER×HUNTER」を30巻までまとめて読んで、この人がこの漫画を引き合いに出していた理由は分かった。ただ、同じ次元で比較するものではないと思う。
↓「HUNTER×HUNTER」を読んだ感想メモ
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120915/1347731249


アニメもどんなものか見てみようと思う。
追って「悪の教典」も読んでみたい。

↓読みました。以下感想。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120817/1345226218

アニメは結局見なかった。