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三浦しをんの小説「白蛇島」

白蛇島

白蛇島

三浦しをんの作品を発表年代順に読むことにしている。
今回読んだ「白蛇島(はくじゃとう)」は、2001年12月発行の長編3作目。

文庫版は「白いへび眠る島」と改題、短編も加え2005年に出版されている。

白いへび眠る島

白いへび眠る島

第1作「格闘する者に○」と第2作「月魚」はまったくタイプの違う小説だった。
新人ながら表現スタイルと描くジャンルの幅の広さに驚かされた。

そして、この3作目は、「伝奇ミステリー」に「少年のひと夏の冒険」を絡めた、またも違ったジャンルの作品。
若いのにずいぶん引き出しのある人だと感心した。

《舞台》《主人公》《プロット》はこんな感じだろうか。


《舞台》
古くからの因習を残す美しい自然に恵まれた離島。
その島には白蛇にまつわる伝説があり、不思議な“力”が神社のある地区には満ちている。

《主人公》
島で生まれ育ち、不思議なものを見る力をもつ少年。
少年は、そのような能力を持ちながらも、因習深い島に違和感、馴染めない感覚を抱いている。
中学卒業後、島を出て本土の高校の寮で暮らしている。

《プロット》
夏休みになり、少年は帰郷。
島に帰ったのは13年に1度、島で開催される伝統ある大祭が行われる時期だった。
帰郷した少年は、タイプは違うが強い絆で結ばれる“持念兄弟”と呼ばれる親友の少年と再会。
やがて、不穏なものを感じさせる不可思議な事件が続発する。
そんな中、少年は島の神官の血を引き、不思議な能力を持ちながらも長男でないことで疎まれる神官の次男、そして神官の次男に付き添う、“妙な雰囲気”の人物と出会う。
大祭の夜、島の“調和”を乱そうとする“この世のものでない存在”が島を危機に陥れる。
少年と親友、そして神官の次男と謎の男は、世界の乱れを鎮めようと行動する。


大雑把だが、こんな感じではないかと思う。
物語は少年が船で帰郷する場面で始まり、船で島を去るシーンで終わる。

構成的にはかっちりとした物語だと思う。魅力的な要素も満載だ。

この小説では目次、各章の冒頭でそこでの出来事を簡潔な言葉で書いている。
こんな感じである。

第一章 島に帰る
幼なじみは出迎える〜猪との格闘の話〜赤いのぼり〜屋根から見た集落〜不吉な噂

第二章
「光市」号出勤する〜もう一つの月〜黒い人影〜悟史、残酷な気分になる〜持念兄弟の話〜荒太と犬丸〜居心地の悪い家〜あれの出現

といった具合。目次だけでなく、わざわざ本文の章立ての後にもこれが書かれてある。

この小説、どのように具体的要素を盛り込み、伏線を張るかに力を入れた作品だったのではないだろうか。

以上、作品の作りについてはこんなことを思った。

そして読んだ感想。

この小説、この著者で初めて文章のリズムに乗り切れなかった作品だった。
今まで読んだ彼女の小説は、導入部分については読んでいてギクシャクするところが感じられても、しだいに読むリズムが乗ってきて違和感がなくなり小説の世界に入り込むことができたのだが、この作品の場合は、終盤まで読んでいてギクシャクしたものが若干残った。もちろんつまらなくはないが。

こんなことを思った。
ロールプレイングゲームのように、ここまでで、このイベントを発生させて、この情報を提示、次の章ではここまで展開させる、というような発想で執筆させていったのではないかなどと思った。村の集落の地図上の構成など、型にはめて物語を進めていくというものを感じた。
そして、そういうことを意識、どう説明するかに気を取られて書いたがゆえに、読んだときに硬いギクシャクしたものを感じるようなものに仕上がってしまったのではないのか、などと。

今まで読んだ印象からすると、筆者は文章に関しては相当な手慣れた筆力があると思う。
それから思うと、今回は硬い文章だったような気がした。

ただ、ラストの島を離れるシーンの文章は見事だ。もしかしたらラストシーンのイメージからこの物語の構想は始まったのかな、などと思った。

文庫化の際にタイトルを変えているが、短編も加えているようだし、もしかしたら本文も修正しているのかもしれない。作者的に仕上がりについて修正したいところがあったのだろうか? 後日、確認してみたい。

タイトルは文庫版のほうがいいと思う。
「白蛇島(はくじゃとう)」では妖しさ、まがまがしさがこの内容にしては強すぎる気がする。
「白いへび眠る島」の方が内容のイメージに合っていると思える。

あとがきにこの作品を「白い軽トラック三部作」最終作と書いている。この時点では3作しか発表していなかったので、「格闘する者に○」「月魚」とこの作品で“白い軽トラ三部作”ということになる。
でもその後の「まほろ駅前多田便利軒」「風が強く吹いている」でも白い軽トラは出てきた。宣言しながらも結局出してしまうくらい軽トラが好きということなのだろうか?

以上、いつもにもまして主観性が強く“ぎくしゃくした”感想メモだが、とりあえず書き残すことにする。
更新するかもしれない。

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追記

文庫版に追加された短編を読んだ。
6ページの短編。
荒太と犬丸のやりとりを記したもの。
読み終えてからかなり経つので、この短編がどう余韻を残すのか今ひとつわからなかった。