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村上もとか「JIN-仁-」全20巻

JIN-仁- 全巻セット (ジャンプコミックスデラックス)

JIN-仁- 全巻セット (ジャンプコミックスデラックス)

今年の3月に村上もとかの自伝「終わりなき旅 僕はマンガをこう創ってきた」を読んだ。長年、彼の漫画を読んできた私としては、非常に面白かった。村上氏は「JIN-仁-」についても色々と語っていた。この本は「JIN-仁-」連載初回の全ページを原画で掲載している。迫力があり、一見の価値はある絵だ。
↓「終わりなき旅 僕はマンガをこう創ってきた」を読んだ感想メモ。
http://d.hatena.ne.jp/allenda48/20120308/1331210044
終わりなき旅 僕はマンガをこう創ってきた

終わりなき旅 僕はマンガをこう創ってきた

JIN-仁-」は未読だったので、読もうと決めたのだが、ほかの本も溜まっていてなかなか読むことができなかった。
やっとまとめて読むことができた。
全20巻。2000年から2010年の10年間、スーパージャンプに連載されていた。

読んだ感想をつらつらと書く。ドラマとの比較は省く。

見せ所など要所要所をしっかりとおさえ、20巻で物語をきっちりと描ききったプロの漫画家の作品という感じだった。
デビューのころから彼の漫画は読んでいたが、今までの漫画の中で、誰にでもアピールできる商業漫画としての面白みが一番あった作品のような気がする。バランスのいい作品という感じ。

自伝で語っていたが、連載前に村上氏は歴史、医学史、医療について3人のアドバイザーをそろえてほしいと編集者に要望を出したそうだ。そして、その3人と相談しながらリアリティのある設定、表現にこだわり抜いたという。作品中大活躍する“ペニシリン”が製造できるかについても、随分と考証を重ねたと書いている。仁のタイムスリップする年を文久2年にしたことにも歴史的背景を考えてのことだったそうである。村上氏は自分を「こだわりの人」と言っていたが、この作品ではそのこだわりがタイムスリップという“荒唐無稽な”物語の説得力をもたせることになったのだと思える。キャラクターが動く“背景”は非常にしっかりと作られている。

ただ、私が久しぶりに村上作品を読んで一番強く思ったのが登場キャラクターの魅力だ。
咲、野風という2人のヒロイン、仁をサポートする江戸時代の医師たち、仁と交流する幕末の志士たち、江戸の町に生きる市井の人たち。皆、それぞれの人生を生き抜いている魅力がある。
そして、そんな人々との交流の中で、「これからどう生きていけばいいのだろう」と初めは途方にくれていた仁が「この時代で生きていこう」と強い意志を持つにいたるまでの過程が、いくつものエピソードを重ねながらじっくりと描かれている。

読み終えてこんなことを思った。抽象的ではあるが。

自分にとって、村上もとかの作品の魅力は<登場人物が放つ“生の輝き”なのではないかと。

F1レースを舞台にした「赤いペガサス」の主人公・赤馬研は“ボンベイ・ブラット”という特殊な血液型。その赤馬が、死と隣り合わせの(著者によれば、連載当時は統計的にF1レーサーの生存率は50%だったという)F1レーサーとして生きる姿を描いていた。
岳人列伝」では命を賭けて山に挑む人々を描き、その鮮烈な生と死の瞬間をクライマックスの大ゴマの1枚の絵に集約させていた。
六三四の剣」でも六三四の父・栄一郎は藤堂国彦との試合で命を落とす。とんでもなくやんちゃだった小学校時代の六三四は、国語の時間に宮沢賢治の「永訣の朝」の朗読を聞いて号泣したりしていた(父の死の前のこと)。
“けふのうちに
とほくへいってしまふわたくしのいもうとよ”
で始まる、賢治が妹・とし子の死について書いた有名な詩である。

“死と生”を意識した上での“生きる”躍動感、輝きといったものが村上漫画には強く刻まれている。
そういえば、村上氏がよく使う“ドクン”という表現も“生きる脈動”だ。

久々に村上漫画を読んで、そんなことを思った。

ざっと書いたものなので、また、思うところあれば更新する。

文庫版も出ているようだ。ただ、原画を見てしまった後で、絵の迫力を求めると文庫では不満に思うかも。「六三四の剣」のように愛蔵版を出してほしいところだ。

次は最後まで読みきっていない「龍‐RON‐」を読了することにする。