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三浦しをんの小説「舟を編む」

舟を編む

舟を編む

11月に「ゲド戦記」を読み始め、全6冊を読み、またそれを読み返し、そして作者アーシュラ・K・ル・グィンのエッセイ、小説を読んでいた。
ル・グィンを読み始めてから、ブログに感想を書くことができなくなった。
はっきりとした理由は自分でもよくわからない。
だが、多分、ル・グウィンの作品は私にとって非常に魅力的だが、簡単に語ることが出来ない代物、つまり私の手には余るものだから、という気がする。
自分の備忘録としての読書メモなので好き勝手なことを書いていいのだが、それにしても自分なりに自分の手で作品を“捕らえた”という感じにならず書く気になれない。
ル・グウィン以外の感想メモも書けなくなってしまった。
読んだもの、見た映画の記憶、印象は書き留めておかないと忘れてしまうので、書き残さないとまずいと思っているのだが……
困った作家と出会ってしまったものだ。

で、ほかに読んでいるもの書き残さなければいけないと思い、まずは先日読み終えた「舟を編む」の感想メモを残すことにする。

自分にとって7冊目となる三浦しをんの小説単行本だ。
彼女の小説は私にとって興味深く魅力的だったので、デビュー作から単行本発表順に読むことにしていたのだが、たまたまこの本が入手できたので読むことができた。
2011年9月刊。本屋大賞を受賞した作品とのことだ。
それなりに期待して読んだ。

で、読んだ感想だが、今までに読んだ7冊の単行本で最も“軽い”内容だった。
作者にとって最も売れた小説なのではないかと思われるのだが、力みを感じさせない、軽く書いたように思われるであろう内容だ。
キャラクターも比較的誰にも理解されやすいステレオタイプといっていいものに設定されている。そしてあまり奥行きを感じさせない。
読む分には何のストレスも感じないのだが、“深みのある”作品と勝手に推測していたのでちょっと肩透かしではあった。
まあ、おおざっぱにいえばこの小説、「天地明察」のように「ある種の能力に優れ、真面目でちょっと変人めいたところもあるが、愛すべきところもある前向きな主人公が何かを成し遂げる話」という内容である。
天地明察」は後半での盛り上がりが今ひとつ決めきれなかったグダグダ感があったが、こちらはさすが三浦しをん。軽く書いているようで、決め所、泣かせどころはきっちりと押さえていた。

結局、思ったのだが、この小説は、帯に描かれた漫画家の雲田はるこの登場人物のイラストがあったからこそ、ここまでヒットしたのではないかと思われる。
ライトノベル的手法が見事にはまった、という感じだ。

そして内容はまさにライトなノベルでもあった。

ただ、“辞書”を言葉という海を進んでいくための“舟”として、タイトルを「舟を編む」とした着想は素晴らしいと思った。
個人的には、このアイデアならば、軽いものでなく、言葉という奥深い海を公開していく舟を描くような、質・量ともに奥行きのあるものを書いてほしかった。この作家なら間違いなくできると思う。
とはいえ、女性誌「CLASSY.」に連載されていたもののようなので、“軽く”がこの小説のコンセプトだったのだろう。連載のときは挿絵はついていたのだろうか? ちょっと気になる。

あー、三浦しをんだと、ル・グィンと違ってほんと思ったことがつらつらと軽く適当に書ける。

なんなんだろ。不思議だ。