伊坂幸太郎の小説「死神の浮力」
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文章が読みやすい。読むのが楽。というのもあるのだろうが、
もしかすると、意外にこの作家、私のお気に入りなのかもしれない。
まだ7、8冊しか読んでいないので折をみてまだまだ読み進めていきそうだ。
読むのが楽なので、気晴らしに読めるというのが、この作家の小説のいいところだ。
それだけでなく、感想メモを書いているので、自分のどこかに引っ掛かるところがあるということだろう(数ヶ月前に読んだ「グラスホッパー」「マリアビートル」の感想メモはまだ書いていない)。
初期作で非常に才能を感じ、時系列で読み進めようと思った三浦しをんに関しては、近作になってから読む意欲が薄れてきたのと対照的ではある。「神去なあなあ日常」は読みやすい文章でありながら、ずっと中断している。
今回読んだのは、「死神の浮力」。
中編集「死神の精度」に続く、死神の千葉が登場する書き下ろし長編である。
「死神の精度」と「マリアビートル」は私が読んだ範囲では、この作家で気に入った作品だった。
- 作者: 伊坂幸太郎
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で、以下に「死神の浮力」を読んだ感想をつらつらと書く。
この小説の内容を一言で言えばこんな話だろう。
娘をサイコパスに殺された小説家。その夫婦が復讐をしようとしている。そこに死神の千葉が絡む。
「死神の浮力」ではサイコパスについて以下のように書かれている。
P9
「アメリカでは二十五人に一人は良心をもっていない。って話、聞いたことがある?」美樹が言ったことがある。(略)「サイコパスと呼ばれている人たちだ」僕はずっと昔、小説を書く資料として読んだ本の何冊かを思い出した。「冷淡な脳と書いてあるものもあった」
彼らは表面的には、ごく普通の人間で、ごく普通の親であり、たとえば動物を飼い、たとえば立派な肩書きを持ち、生活している。成功者であることも多い。ただ、他人に共感することがなく、社会のルールを守る意識も薄い。良心を持たず、自分の行動が誰にどういった影響をもたらすのかを、まったく気にせずにいられるのだという。
「『できないことがない』人たちのことだよ」
「え?」
「僕が読んだ本にはそう書いてあった。僕たちは普通、自分の欲望をそのまま叶えることはできない。相手を傷つけたり、ルールを破ってしまうことを恐れるからだ。ただ、良心を持たない人たちは、無敵だ。できないことがない」
つまり冷淡な脳を持つサイコパスは、自分の欲望を叶えるためであれば、自分を偽ること、人を裏切ること、極端な例では殺すこと、何でも冷淡に行うことができるということだ。
“共感能力”“良心”をまったく持たない、という点で、究極のサイコパスは純粋な“悪”といっていいのかもしれない。
強度のサイコパスは貴志祐介の小説「悪の教典」でも主人公の高校教師として登場している。
現実世界ではまず、いないと思うが、小説世界では、興味深いキャラクターとして使いたくなるたぐいの人間なのだろう。
サイコパスという言葉は使っていなかったが、「マリアビートル」に出てきた中学生・王子も同じ種類の人間だ。
多彩なキャラクターが登場した「マリアビートル」でも、共感能力、恐れをもたない冷徹な王子の存在感は際立って“魅力的”だった。
ということで、期待しながら読んだ「死神の浮力」であるが、読後感としては、敵対者であるサイコパス・本城崇のキャラクター描写を省いているため(意図的だと思うが)、どうしてもドラマとしてのメリハリが弱くなっていた。
長編物語としては、やはり本城についてもっと描写して彼をある意味で“魅力的”にしたほうが読み応えがあるものになったのでは、と思えてしまう。
この作家は基本的にいつも巻末に参考文献を挙げている。
サイコパスについては
「良心をもたない人たち−25人に1人という恐怖」マーサー・スタウト
「サイコパス 冷淡な脳」ジェームズ・ブレア、デレク・ミッチェル、カリナ・ブレア
という書籍を挙げていた。
- 作者: マーサスタウト,Martha Stout,木村博江
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以上。