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西加奈子の小説「きいろいゾウ」

きいろいゾウ (小学館文庫)

きいろいゾウ

きいろいゾウ

図書館の返却棚にあるのを見かけ、どんなものかと借りて読んでみた。

小学館から出ている“ナイーブな感性”を売りにする中途半端な自意識過剰の小説のたぐいかと思っていたのだが、予想と違い興味深く読めた。

ただし、個人的にはここで描かれる、ツマ(妻利愛子)とムコ(無辜歩)の愛の物語は正直ピンとこなかった。これがメインの話なのだが、私はほかのエピソードに引かれた。

私が読んで面白く、心引かれたのは、不登校になり田舎の祖父母の家に一人で越してきた大地という小学校5年の少年にからんだエピソードだ。

この大地という少年が、伊坂幸太郎の「マリアビートル」の王子と対極にあるような存在なのだ。
2人とも容姿端麗で秀でた知能、身体能力を持ち、クールな処世術も身に付けている子供である。
だが、王子は他人のことなんて眼中にないサイコパス的存在なのに対し、大地は他者を意識して「恥ずかしくなり」不登校になってしまったというなんとも優しい子なのだ。

この大地君が、田舎暮らしを始めた若夫婦と出会い、動植物の声が聞こえてしまったりする、“天然”な嫁さんとの交流で、この世界でも頑張ってみるか、みたいに回復していくという過程の描写が物語中盤に配されている。この部分がよかった。

ただ、大地君が田舎から去った後の、後半の展開は私の好むところではなかった。
そこで展開するウェットな愛の世界は私の好むところではなく、さらに構成的グズグズ感もあり、読み進めるのに苦労した。

この小説、総ページ数は400ページを超える。
このたぐいの小説としては意外に改行が少なく、文字数も多い。
もっと文字数を少なくしたほうが締まった小説になったのではないか、などと余計なお世話だが思ってしまった。
中盤までは、この小説いいなー、と楽しんでいたのだが、後半になり、好みから外れてしまい興がそがれた。

この作家のほかの作品を読むかどうかは微妙なところである。
図書館でたまたまみかけたら、また読むかもしれない。

ちなみに小説ではムコは坊主頭の不細工な男という設定である。
向井理が演じるには無理があると思えるが、映画版はどのような感じに仕上がったのだろう。