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成馬零一のテレビドラマ論「キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する6人の脚本家」

表紙とタイトルから特に期待をせずに読んだが、なかなか充実した内容で楽しく読むことができた。
以下、ざっと感想メモを書く。

著者は序文といえる「はじめに テレビドラマとは何か。」で以下のように述べている。

P5
曖昧模糊とした状態で発展と拡散をしつづけて、もはや全貌がつかめなくなりつつあるテレビドラマを、歴史的な観点から語り直し、著者なりのテレビドラマ史を提示すること、そしてその歴史を踏まえた上で、2013年現在、もっとも注目すぺき六人のテレビドラマ脚本家について評論するのが本書の狙いだ。
本稿では六人の脚本家について評論する一方で、以下の六つのコラムが挟まれている。
・ホームドラマ
・トレンディドラマ
・キャラクタードラマ(1)(2)
・朝ドラ
・現実のフィクション
これらを順番に追うことで、60年間のテレビドラマの歴史を網羅できる構成となっている。

“60年間のテレビドラマの歴史を網羅できる”
とは大きく出た序文だが、読後の感想としては、「なかなか読み応えがあった」となると思う。
日本のテレビドラマの歴史と現状を俯瞰して、
自分なりの見識をわかりやすく示しているという本は実はあまりない気がする。

ここで取り上げているのは以下の6人の前線にいる脚本家。
それぞれ章を立てて紹介。
第1章 岡田惠和
第2章 坂元裕二
第3章 遊川和彦
第4章 宮藤官九郎
第5章 木皿泉
第6章 古沢良太

ドラマ史における著者なりの評価、位置づけも示されており、納得できることも多い。
岡田惠和遊川和彦のインタビューもあり、著者と突っ込んだドラマ論も語り合っている。

感心したのは、著者が長期間にわたってに莫大な量のテレビドラマを評論の対象と意識して見続けてきたということだ。
著者なりのドラマ史観が提示されている。
こういうものは意外にありそうでないのだ。
もしかすると仕事の関係もあったのかもしれないが、著者の“テレビドラマに関する見識”については感心することが多々あった。

私はテレビドラマの熱心な視聴者ではないが、折に触れて脚本は読むように心がけている。
ここで著者が挙げている現役6人のセレクトに対しては私としては共感するところはあった。
6人に対する著者の評価にも大きな部分での違和感はない。
ここで論評されている未見のドラマを見てみようかという気にもなった。
しいて言えば女性脚本家がいないという点についてはちょっと引っかかるところがあるが。
著者の熱意も感じるし、借り物でない自論も展開しており、好著といえなくもない。
ただ、以下の点が気になった。

◆まず誤植。
商品としてはかなり致命的な間違いがあるのが気になる。

P3
(テレビ放送の)本格的なスタートは、NHK日本テレビが開局される昭和二十八年(1953年)。敗戦から一八年後のことだった。

正しくは終戦から8年後。終戦から8年後と18年後ではあまりに大きな違いがある。

P124
キャラクタードラマという概念を考案する上で参考にしたのは、大塚英志「キャラクター小説の書き方」(講談社現代新書)だ。

↓これは角川書店から出た文庫版

キャラクター小説の作り方 (角川文庫)

キャラクター小説の作り方 (角川文庫)

正しくは「キャラクター小説の作り方」である。
著者は「キャラクタードラマ」という言葉を「キャラクター小説の作り方」をヒントにしたと書いているが、そのタイトルを間違えるというのは酷すぎる。

以上の2点は編集者の責任でもあるが、書籍として出すものでこのような間違いがあると、せっかくの内容もだいなしだ。
突っ込むつもりで読んでいなくても気付いてしまうということは、意識して読めばほかにもあるのでは、と思えてしまう。

◆もうひとつは我田引水的な論の展開がところどころ見受けられた点。
例を挙げると遊川和彦論の部分。
家政婦のミタ」について

P97
例えば、阿須田家の母親は水難事故で命を落としているが、これは震災後の津波で亡くなった人々を象徴している。

これはかなり強引な論の展開だ。
水難事故で死亡という事件は、この作品だけでなく、すでに「女王の教室」でもあった。
前日譚のスペシャル番組で、主人公・阿久津真矢はかつて自分の息子を水難事故で失い、そのことで大きな心の傷を負い、夫とも離婚していることが描かれている。
ドラマのバックグラウンドにある大きな事件である。
遊川和彦の中では3.11以前から“水死”ということに対して何らかの意味あいを込めていたと思われる。
著者は当然、このことは知っていたはずだ。
だが、論をわかりやすく展開するため、このことに触れていない。

また、「純と愛」で純が眠りにつくことについても、遊川脚本の「幸福の王子」でずっと眠り続ける男の話が登場したことに触れていない。昏睡状態になった愛のことに触れるのであれば、「幸福の王子」にもぜひ触れてほしかった。そうすれば「純と愛」についてもっと深い評論となったと思うのだが。ただ、こちちらは文字量の問題でそこまで触れることはできないという点もあるので、“水死”ほどに酷いものではないが。
などなど読んでいて、気になる点はところどころあった。

というわけで、絶賛というわけではないが、
自分のドラマ視聴体験に基づき、自分の言葉でドラマ論を展開している
という点で、私はこの本に好感を持ち、楽しく読むことができた。


この本を読んだのは1月の中旬。
その後、同じ著者の「TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!」も読んだ。
これも興味深く読むことができた。
時間があればそちらも感想メモを残したい。

TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ! (宝島社新書315)

TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ! (宝島社新書315)

余談になるが、この本の著者は、以前読んだ、「木皿泉 ---物語る夫婦の脚本と小説」(文藝別冊/KAWADE夢ムック)にも寄稿していたとのこと。ただ、私の記憶にはなかった。

↓未発表小説「晩パン屋」が素晴らしい。木皿ドラマの好きな人なら一読の価値はあります。