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映像、書物、音楽などについての感想

仲村うさぎ×三浦しをんの対話録「女子漂流 うさぎとしをんのないしょのはなし」

昨年の秋に中村うさぎは意識不明となる心肺停止状態に陥っている。
その当時の心理状態を、彼女は週刊文春で連載していた「さすらいの女王」でつづっていた。私は彼女の病状のことは全く知らなかったが、連載中の文章を読み衝撃を受けた。
なんだか唐突で意味不明な文なのだが、ともかく切迫感があり、読んでいて心打たれた。
連載中断となって初めて彼女の病状を知り、なるほどと思った次第である。
あまりに感動したので雑誌を切り取りPDFで保存してしまった。
中村うさぎ 文春連載中断まで.pdf 直
彼女の死を前にしたあがきっぷり、一読の価値はあると思う
以降、彼女の言動には注目している。
↓上記の連載を収録している
死からの生還

死からの生還

文芸春秋中村うさぎ「死からの生還」公式サイト。前書きとさわりも読める。
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163900247

週刊文春での連載が終了するとのことで、それに続くものとして有料メールマガジンが4/4(金)にスタートするそうだ。

中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話」。昨年の臨死体験と現状を踏まえると、洒落にならないタイトルである。
http://www.mag2.com/m/0001629430.html

で、今回読んだ「女子漂流」の感想メモ。
どのような接点で2人が語り合うのか興味があり読んでみた。
両者ともに好きな文章家なので。
この対談は中村が病気で倒れる前、写真からすると去年の春先くらいに行われたのだろうか?
読んでみると、どうやら女性に向けた書籍のようだった。
なぜ、この対談になったのかといういきさつは私には不明だった。

帯にはこんな言葉。

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とかく女は
生きづらい

赤裸々すぎるガールズ・トーク、ついに解禁

浪費、整形、ホスト……女の業を体現し続ける作家・中村うさぎと、“女戦線”からの離脱を切に願う“隠遁女子”作家・三浦しをん。ともに女子校に育ち、だけど歩んできた道は正反対。そんな2人が、長い漂流の先に見つけたものは──。

美人か、ブスか。美醜という基準は、女子の生き方をとても縛るものだよね。女子って「でも、ブスじゃん」の一言で、そこまで積み上げられてきたものが、すべて台無しにされる感ってあるから───中村うさぎ

出家制度がもっと根付いたら楽なのにって最近よく思うんです。「大変残念ですけど、モテとかそういう文脈からは脱落させていただきます」っていうことを、もっと分かりやすく、世間に示す制度があっていいんじゃないかって───三浦しをん

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「まえがき」の冒頭で三浦しをんはこう書いている。

P2
人間は生きづらい。相田みつを氏の至言を借りれば、だって「人間だもの」。
どうして生きづらいのかな〜、ということを、「女子について語る」ことを通して考えてみたのが、本書である。50代と30代の女2人が「女子」とか言って、ずうずうしくてみません。

さらに三浦は“生きづらい”ことについてこう書く。

『自意識と自分』、『社会(世間体)と自分』のせめぎあいが、ひとを苦しめる。しかしそのせめぎ合いがなければ、ひとはひととして成立しないのかもしれないな」ということだ。

“『自意識と自分』『社会(世間体)と自分』との折り合いをつけること”。
ここに生きづらさを感じる人は男女問わず多いと思う。
というか、多かれ少なかれ、誰でもそうなのではないだろうか。
ここでの対話は、その生きづらさを女性ということにに絞って話し合っているもの、ということになるのだろう。
ちなみに、シモ(エロ)ネタに関しては、中村うさぎのあけすけな話に、三浦もそれなりに合わせて話をしている。

以下、興味深かった点。

【女子校、“島”のこと】
2人とも横浜のキリスト教系の中高校一貫校出身とのこと。
中村はプロテスタントの捜真女学校(中村いわく「小金持ちの娘が通う」学校)。
三浦はカトリック横浜雙葉(中村いわく「もっと金持ちで頭のいい子が通う学校」、三浦いわく「学校の名前はいちおう伏せておきます」)。
2人によると、「桐島、部活やめるってよ」的なスクールカーストはなかったそうだ。
50代、30代の人間の語ることなので現状とは違うのかもしれないが、スクールカースト的なものは共学校にのみあるものなのだろうか、などと思った。
ただ、自然発生的なグループは存在していたという。

P18〜
うさぎ そうだよね。でも、カーストみたいに上下の関係とは違うよね。
あたしは派手でチャラチャラしてて、男のことばっかり考えているような子が集まるグループにいたけど、派手だから偉いわけじゃなかったからね。
単に目立っているだけで。
しをん そうですね。上下じゃないですね。
なんて言えばいいんだろう……校内にグループという名の島がたくさんあって、勝手にプカプカ浮いている感じ?
うさぎ そうですね(笑)。上下じゃないですね。
まさに、島がたくさんある感じ。しかも、それぞれの島には連絡船が通っていなかったよね。
しをん そうでした(笑)。お互いに遠くから島を見つめて、ときどき別の島の噂話をする感じでしたね。
女子高って、陰湿なイジメを連想する人がいるみたいだけど、そんなことは全然なかった気がしますね。
だいたい、他の島のことなんてよく分からないし。

「女子漂流」というタイトルは、この“プカプカ浮いている島”というところから来ているのかもしれない。
女子校というものは、そういうものなのかと初めて知った。
ラストはこんな感じで締められる。

P187〜
うさぎ 三浦さんは女子校時代からオタクまっしぐらで、一貫して女子力というものに距離を置いて生きてきたんだね。
しをん その力を発揮できるものならしたかったけど、できずじまいですね。
うさぎ あたしは女子校時代から、女子力まっただ中みたいな環境に生きてきて、40歳を過ぎて、整形をはじめ、エロス権力をいかに長引かせるかに力を入れている。
同じ女子校出身なのに間逆の人生を歩んできたよね。(中略)
しをん 2人とも、岸からだいぶ離れちゃったところは似てますね。
うさぎ あたしは派手なグループの島にいて、いかに男にモテるかを考えて、女子力まっただ中を歩んできたつもりだったのに、いつのまにか岸から離れちゃって(笑)。
しをん 私は地味なグループの島で、漫画に没頭していたら、いつのまにか岸から離れちゃって(笑)。
うさぎ まさに漂流だよね。女子がいかに王道を生きようとしても、離れ小島で生きようとしても、どっちみち漂流してしまう。
じゃあ、漂流しなかった女子って誰なの?
しをん 私も今、考えてたんですけど、沖から大陸に向かって「おーい!」って手を振ってみるものの、実はそこには誰もいないんじゃあないかと。
うさぎ 無人の大陸なのか。
しをん そうなんですよ。
つまり、海の上に、大小さまざまな無数の島がぷかぷか浮いてて、そこだけで女子は生息しているのかもしれないですよね。
それで、たまに別々の島の住人が、ガラスの瓶に近況報告をしたためた手紙を入れて送り合っている。だけど大陸には女子はいないんです。
うさぎ 大陸には、男がいるんですか?
しをん 男たちは……、海中でモゴモゴしてるのかな、海藻みたいに(笑)。
うさぎ 男たちも、それぞれの小島で生息してるかもしれないよね。
そう考えたら、大陸に人がたくさんいるかもしれないって思うのは、幻想かも。
大陸という世間体があると思うから、生きづらい。
しをん そうですよ。
上陸許可を得たいと思って、必死で大陸の岸に向かうんだけど、いざ着いたら無人なわけですからね。
うさぎ その岸にマジョリティーがいるって信じているから、生きづらさが生まれるけど、そこに誰もいないと分かれば、急に楽になれるね。
しをん そうですね。
(中略)そう思えば、女子力があろうが、なかろうが、別にどっちだっていいんだって割り切れそう。
うさぎ 本当ですよ。
っていうか、55歳で女子力って言うあたしって、その時点でどうか思うよ(笑)。

ここで語られている
「大陸という世間体があると思うから、生きづらい」という言葉にある、
この“生きづらさ”は男についても同じだと思うのだが、どうなのだろう。
まえがきにあったように、結局「人間だもの」ということだと思うのだが。

【2人の人生観の違いと共通点】
2人の人生観と生き様は正反対だ。
だが、通じるところがあるのが面白い。
これはまえがきで三浦が書いていた
“『自意識と自分』、『社会(世間体)と自分』のせめぎあい”に2人とも敏感で、そのことで生きづらさを感じてきたからなのか、などと思った。
その接点としてオタクというものがあるというのも興味深い。

それにしてもここでの三浦の発言はすごい。
ブログをやっていることに関してはこう語る

P144
しをん (前略)でも、コメントもトラックバックも受け付けていないんです。
うさぎ それは、何か意図があって?
しをん 仕組みが分からないってのもありますけど、誰とも交流したくなくて。
うさぎ そうなんだ(笑)。
しをん あんまり共感を求めてないんですよね。
友達と会話してるときも「へ〜。かわいい〜」とか「それは大変だったね〜」みたいにあんまり言わないのも、安易に共感したくないからだと思うんです。
共感に至るためには、お互いのことを相当知ってからでないとできない。
(中略)あと、面倒くさいんです。
そう面倒くさいんですよ!
他人が何してるとかどうでもいいし、他人から「何してる?」って聞かれるのも、面倒くさくてイヤなんです。
うさぎ それは、昔から?
しをん そうですね。「面倒くさい」が、すべてを支配しているようなところがありますね。
うさぎ まあ、わたしも、人から「何してる?」って聞かれても「ドラクエしてる」としか答えられないけど(笑)。
しをん 私は「漫画読んでる」。
30年前から、ずっと答えが変わらないんですよ。
うさぎ でも「今、何読んでるの?」って話になれば、別じゃん。
しをん あ、そうですね。
(中略)だからSNSとかで、趣味の集いみたいなのだったら、楽しめるかもしれないですね。
面倒くさいから、やろうとは思わないけど。

P150
うさぎ 三浦さんは、同窓会って出席してるの?
しをん 一度も行ったことがないです。お誘いも来ないし。派手な島グループから見れば、私は地味な島一派なので、忘れられてます。
うさぎ お誘いが来たら行きたいの?
しをん いや、行きたくないですね。
当時仲良しだった友達とは、今でも個人的に会えるじゃないですか。
特に親しくもなかった人の近況って別に興味ないし、どうでもいいって思っちゃうんですよね。

この後、学校の付属の下の学校から上がってきた既得権者層(富裕層)子女の閉鎖的なグループの存在に触れて、違和感があるからと語るのだが、それにしてもはっきりしてる。

P182〜
しをん (前略)「女としてどうなの?」どころか「人としていかがなものか?」って思う部分もありますから。
うさぎ 人として?
しをん そうです。つまり一言で言えば、おおかたの人はこんなに漫画のことばっかり考えないってことです。
うさぎ そうだね。
しをん 社交すらも打ち捨てて、本とか漫画をずーっと読んでいる人って、そんなに多くない。
しかも書くのが仕事でずっと家にいるから、(中略)常に何かを読んでいる私に対して、周囲の誰も何も言わなくなってくる。
「え?なんだろう、これでいいのかな?」って思うことがあるんですよ。
「やめるべき?」みたいな。
でも、最近は、もういいかなって。
「しょうがないよ、ずっとこうなんだもん」って感じです。
うさぎ そうだね。
漫画を貪り読む三浦しをんをダメだと世間が言うなら……。
しをん そんな世の中、こっちから捨ててやる!(笑)。
出家制度がもっと根付いたら楽なのにって、最近よく思うんです。

岸から離れること、マジョリティーの中にいないことの不安を感じさせる言葉だ。
ただ、これを読んで私はこれはこれでいいんじゃないのかと思うし、こういう人は増えていると思う。

だが、彼女は、こうも語っている。

P167
しをん もし私が男だったら、たぶん、小説を書く仕事はしていなかったと思います。
うさぎ どうして?
しをん 割と権威主義的だから。
うさぎ そうなの?
しをん はい。だから男だったら、大学行って、そのあと就職して、結婚して、出世してっていう一本道を目指して、それに対して疑問に思わなかった気がするんです。
実現できたかは別だけど。
あの人は自分と全然違う生き方をしているけど、なんでだろうって想像することもなかったと思う。
そういう意味では女の人って一本道みたなものって、あんまりないですよね。

男に生まれても、この人、同じようなことをしていると思う。
あと、一本道なんてものは男にもない。そこは“女子”ならでは誤解だと思った。