黒田隆憲「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて ケヴィン・シールズのサウンドの秘密を追って」
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて ケヴィン・シールズのサウンドの秘密を追って
- 作者: 黒田隆憲
- 出版社/メーカー: DU BOOKS
- 発売日: 2014/02/14
- メディア: 単行本
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近年、意欲的に出版物を刊行しているディスクユニオンブックスから2014年2月に発行されたもの。
中身は、元ミュージシャンで現在はライターとして活動している黒田隆憲という人が、自身とマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとのかかわりを綴った年代記エッセイだった。
大学生の頃から現在に至るまでの自分史を追いながら、その中でマイブラとの関係が語られていく。
大学時代の1ファンから再結成時の世界各地での追っかけ。
メンバーとの交流、念願のインタビューという流れだ。
著者は謙虚な人のようで、「オレがオレが!」という書き手の自意識が暴走する往年のロッキング・オンなどによくあったような文章にはなっておらず、好感が持てた。
ただ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインというバンドに思い入れのある人でなければ読んで面白いかどうかは疑問な内容ではあった。
私自身は楽しく読むことができた。
私は、'90年代で最も重要なロックのアルバムは『ラヴレス』とトータスの『TNT』と思っているので。
- アーティスト: マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン
- 出版社/メーカー: SMJ
- 発売日: 2012/05/30
- メディア: CD
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- アーティスト: TORTOISE
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- 発売日: 2014/05/10
- メディア: CD
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「ミュージックマガジン」など既存の雑誌ではほとんど評価されていなかったと私は記憶しているが、一方で新興の音楽誌の一部ではものすごい盛り上がりを見せていた。
そのことについても触れている。
この本に転載されている雑誌「Mix」での桜井道開氏のマイブラに対する文章が熱過ぎる。引用させていただく。
字が違うような気がして家にあった「MIX」で確認したら正しくは“桜井通開”だった。
「『イズント・エニシング』はおそらく、今後の10年間に計り知れないほどの影響を及ぼすことだろう。MBVは、ループやスペースメン3辺り、もしくはソニック・ユース〜ダイナソーJr.などの文脈で語られることも多いが、これらの扱いはまるで見当違いということはないにしてもやや便宜的なものと思っていたほうがいい。MBVはむしろ90年代の先駆的な役割を果たしているのであり、じきリリースされるであろう新作で再び完全な独走態勢に入るのはまちがいない」(90年7月号)
「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの待ちに待ったニューシングル。とんでもない。独走態勢とか最高とか言うのもアホらしくなるほどシーンから突出する格好になった。『イズント・エニシング』だけでもう十分他のバンドはカスに見えるのに、この調子だと新作は『イズント・エニシング』さえ超えるのではないか。音楽のアインシュタイン。10年たてば全てはっきりするだろう」(90年7月号)
「俺は果たして『イズント・エニシング』を何百回聴いたのだろう? マイブラディの相手になるバンドが一体どこにいるというんだ? 彼らに比べれば、現在地球上でバタバタしている無数のバンドなどアリンコのようなものだ。彼らは百万光年進んでいる。この世で最も格好いい音の組み方を知っている。一体どうすればいいんだ。彼らは毎日何を食っているんだろう。もし彼らに会えたら気絶するんじゃないか。シングル「Glider」。息ができない。気が狂いそうだ。非情のアルバム待ち。こんなにむごいことがあるか。究極のアルバムはもうすぐ。感動して死ぬだろう」(90年7月号)
“感動して死ぬだろう”だ。
すごい文章である。だが、ここに書かれてある“予言”は著者も書いているように、現実のものとなった。
それに対する既存の雑誌、評論家の評価が低かったことについて著者はこのように書いている。
そんな一部のミュージシャンや、同世代リスナーの熱量に引き換え、相変わらず音楽雑誌におけるマイブラの扱いの悪さにはガッカリさせられた。せいぜい中枠のレビューが掲載される程度で、しかも圧倒的な温度差。例えばこうだ。
そこで、大鷹俊一氏の『ラブレス』評が紹介される。
「3年ぶりの新作で、録音に5千万かかったという冗談が笑える。テープ・スピードを歪ませる小ワザは楽しいが、やっぱりかつてのロッキー・エリクソンやスカイ・サクソンの、脳波をトロトロにするやつの影を感じすぎる。曲やアレンジは固まってきて、かなりまとめる力はついているけど、3年かかってこの程度ともいえるしなぁー。」7点(「ミュージック・マガジン」92年1月号 大鷹俊一)
私は大鷹俊一氏はライターとして比較的信頼しているが、彼にしても当時はこんなことを書いていたのだ。
大鷹氏が現在この文を突きつけられたら、「(評論家として)面目ない」と言わざるを得ないだろう。
著者は
今思えば、こうしたメディアの低リアクションが、かえって「このバンドの良さは、僕らにしか理解できないんだ」という意識に繋がったのかもしれない。
と結んでいる。
ほか、気になった点を以下に書く。
“ケヴィン・シールズのサウンドの秘密を追って”という部分に関しては
「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン そのサウンドの秘密」題した章を立てて解説。
トレモロアームを使った奏法、コード進行、エフェクターボードにあるエフェクター機種の紹介・解説もしており、なかなか充実している。
時間と金があれば検証してみたい気分になってしまった。
表紙カバーの裏にあった著者プロフィールの1991年と2013年の写真には度肝を抜かれた。
右に著者、左にビリンダ・ブッチャーがバストアップの同じ構図で写った2枚の写真が並んで載っているのだが、1991年にはフサフサだった著者の髪が、2013年にはスキンヘッズに近い坊主頭に。
頭髪が薄くなったからなのかはわからないが、写真で見るベリンダが22年経っても全く変わっていないので、よけい時の流れを感じさせ、なんともいえない気分になった。
結局、内容についてほとんど触れることができずに終わってしまった。
だが、追記することは多分ないと思う。