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パット・メセニーの『タップ』、ユニティ・グループ来日公演

タップ

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パット・メセニージョン・ゾーンから提供された曲を演奏したアルバム。ジョンが展開している“Book of Angels”シリーズの1枚とのことだ。
調べてみると“Book of Angels”とはジョンが作曲した曲を自身を含め、さまざまなアーティストがカバーするというプロジェクトだそうで、今回が20作目にあたるとライナーには書いてある。それぞれの曲タイトルには天使の名前がついているようだ。

オーネット・コールマンデレク・ベイリーとのコラボやノイズギターを延々と弾きまくる『ゼロ・トレランス・フォー・サイレンス』(’92)もあったので、ジョンとのコラボも不思議ではないともいえるのだが、ライナーに載っているパットの文章を読んでちょっと驚いた。

私は1970年代の後半からジョン・ゾーンを素晴らしいアーティストだと讃えており、彼の驚くべき作品世界を常にフォローしてきた。

パットは70年代の後半からジョンの音楽をずっとチェックしていたという。
さらに以下のように絶賛の文が続く。

何よりも彼は、この世界に素晴らしい影響力を及ぼしていると思う。ジョン・ゾーンは、卓越したミュージシャンで作曲家であるのは当然だが、それだけではない。ゆるぎない強固な信条を持ち、それを精力的に世の中に訴えることを通じて、周囲の人を鼓舞するという稀有な資質を備えている。ジョン・ゾーンから湧き上がる、計り知れない音楽的エネルギーで、その世界観をいくつもの魅力的なアプローチで表現し、彼は豊穣で本質的、そして広大な探究と思索のゾーンを設定している。独自の音楽センスとヴィジョンを通じて、ジョン・ゾーンはすべて彼によって作られた音楽世界を構築している。が、その世界は、ほかのミュージシャンも、ジョン・ゾーンが生み出したさまざまな可能性の中で、それぞれが個性を発揮できる世界でもあるのだ。

ただジョンとの直接の交流はなく、数年前、彼の編集した本“Arcana”への執筆依頼を機にeメールでの交流を持つようになったとのことだ。

そのことを契機に、今作への参加が決まったらしい。

パットはジョンの“Book of Angels”シリーズをスタートの時から聴いていたそうで、パットから、このカバーシリーズへの参加の意向を伝え、ジョンが選曲。パットはツアーの合間に1年間かけて自分のホームスタジオで録音、このアルバムが完成したのだという。

ジャズを聴く人の間でジョン・ゾーンがどのような位置にいるのかは知らないが、私の彼に関するイメージとしては“高円寺あたりに長年住んでいた、日本のロック関係の人とも交流があった日本映画も好きなユダヤ系のサックス奏者”という感じだろうか。「(街で)ジョン・ゾーンを見た」という話は色々な人から何度も聞いた。
私自身は、彼が関わったネイキッド・シティ、ペインキラー、コブラといったものも少しは聴いていたが、正直あまりよく知らない。ウィキペディアを見たら、ノンサッチと契約していたこともあったようなので、そのあたりでパットも間接的には交流はあったのかもしれない。

以降、『タップ』の感想メモ。

パットが今までに聴いたことのなかった面を披露してくれたアルバムだった。
私の中の範疇では、これは広義の“ロック・アルバム”といっていい。
ヘンリー・カウ以降、アート・ベアーズなどのRock in Opposition、レコメンデッド・レーベル関連のアルバムに近いものがある。
あまりいい呼び名ではないが“アヴァン・ロック”と言っていい内容だ。
私にとっては、パットが初めて手がけたロック的趣向のアルバムでもあり、非常に興味深いものだった。

ジャケットデザインも今までのパットのアルバムとしては異色だ。
このアルバムはノンサッチとジョンの主催するTZADIK RECORDS(ツァディク・レコーズ)の両方から発売されているが、ノンサッチ版のジャケットは、真っ赤な地色の上に、悪魔(堕天使?)の上に人が乗っているイラストが描かれた禍々しいもの。

で、音についてだが、聴いてみて、メロディー、スケールに独特のものを感じたが、どうやら
Jewish scaleというものがあるようだ。

こんな音階である。
https://www.youtube.com/watch?v=MMTMddfC69Y

このアルバムはこんなスケールを基にジョンの作ったテーマ、コード進行をパットが再構築したものといっていいのかもしれない。

パットは以下のように書いている。

それぞれの曲は加工前の原石のような要素も持っており、そのことで、それぞれのアーティストが、ジョンがレイアウトした音符と、その精神性に突き動かされ、その曲を自分はどんなアプローチ表現できるのだろうかと、夢中になって考えるのだ。私の場合は想像力を大胆に働かせ、即興演奏のイントロやコーダを追加し、リハーモナイズを施し、対位法的メロディーを加えて、基本的にその曲が向かうべき方向へと促し、必要と思われるすべての楽器、機材を駆使して完成させた。

ドラムスのアントニオ・サンチェス以外はすべてパットによる演奏の多重録音となっている。
ラストの曲ではフリー的なピアノも弾きまくっているが、これがまた面白くて気に入った。

深い意味での音楽的志向は別として、演奏者となると現時点ではジョンとパットが同じステージに立つことは想像しづらい。
ただ、このアルバムにおいてはそんな2人が“手術台の上のミシンと蝙蝠傘のように出会い”(我ながらちょっと恥ずかしい表現だと後で思ったがママにしておく)、パットの演奏者、音楽創造者としての新しい一面が引き出されたように思える。

パットの近年の活動としては、実演を見なかったオーケストリオンについは“どう受け取っていいのかわからない”ところもあったのだが、このアルバムは非常に面白かった。

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※来日公演もあったので、そのメモも残す。
2014/10/8(水)すみだトリフォニーホール
ユニティ・グループでの来日公演

まずは、ユニティ・バンドでの演奏、
次にジュリオ・カルマッシを加えたユニティ・グループでの演奏。
そしてパットと各メンバーとのデュオ、パットのソロを織り交ぜながら、ラストに「 Have You Heard」。
アンコールは「Are You Going with Me」、最後にパットのソロといった流れだった。

特に、クリス・ポッターとデュオ、アンコールのラストのソロが素晴らしかった。
クリスとのデュオではパットはコードは弾かず単音で演奏。だが、フレージングが絶妙で、クリスのサックスとの重なりで素晴らしいハーモニーの流れが即興的に生み出されていた。
こういう音楽を聴くことはなかなかできないと思う。
ラストのソロでは往年の名曲の一節を織り交ぜながら即興演奏を展開。深い余韻を残した。

今後もパット・メセニーキース・ジャレットの来日公演だけは必ず見に行くことにする。

ユニティ・バンド

ユニティ・バンド

KIN(←→)

KIN(←→)

セットリストがウェブ上でアップされていた。
無断転載させていただく。

以下のようです。

【Set List】
Introduction : [Pikasso Guitar Solo]
1. Into the Dream

Pat Metheny Unity Band :
2. Come and See
3. Roofdogs
4. The Bat
5. Police People
6. Folk Song #1

  • MC -

Pat Metheny Unity Group : [w/ The Orchestrion]
7. Kin(←→)
8. Rise Up
9. Born
10. Genealogy
11. On Day One

Duets :
12. Bright Size Life [w/ B.Williams (ac-b)]
13. Cherokee [w/ C.Potter (ts)]
14. Dream of the Return [w/ G.Carmassi (vo, key) + The Orchestrion]
15. (Go) Get It [w/ A.Sanchez (ds)]

Pat Metheny Unity Group :
16. Have You Heard

Encore 1 : [PMUG]
17. Are You Going With Me ?

Encore 2 : [Pat - Acoustic Guitar Solo Medley]
18. Phase Dance / Minuano (Six Eight) / As It Is / Sirabhorn
/ The Sun in Montreal / Omaha Celebration / Antonia / Last Train Home