皆川亮二の漫画「PEACE MAKER」1〜13巻
特に期待せずに読んだのだが非常によかった。
作者についてはまったく意識していなかったのでいい漫画家を見つけたという感じだ。
映画だと映画監督・牧野省三が語った映画の3大魅力である要素
1 スジ、2 ヌケ、3 ドウサ
というのがあるが、
それを漫画に置き換えれば
1 ストーリー、2 背景描写・構図・コマ割り、3 キャラクター描写
となるのではないかと思う。
この作品を読む限り、皆川亮二という人は1と2が飛び抜けていい。
開巻、主人公の兄である銃神コール・エマーソンが教会を襲撃するシーンのコマ割り・描写は名作映画のシーンのようで一気に物語に引き込まれた。
しっかりした構成に基づくストーリー展開、見せ場での見事なコマ割りと絵に魅了された。
読み応えは非常にある。
ストーリー展開で貯めに貯めて一気に爆発(収束)、という胸のすくようなシーンを描くことができる漫画家だ。
第4巻、主人公ホープが風車に仕掛けられた毒の入った箱を撃ち落す場面など、読んでいて思わずおおーっと唸ってしまうような漫画の醍醐味を感じさせてくれる名シーンがいくつもあった。
ただ、不思議なのがキャラクターの描写だ。
主要キャラの造形があまりかっこよくない。
後半で主人公となるニコラ・クリムゾンの少女時代はまったく可愛くない!
かっこいいキャラクターを描くことに作者はあまり興味がなく、むしろキャラクターの配置、構図といったものに力を入れる人のように思えた。
ツタヤのレンタルで読んだのだが、カバー表紙の下の図版のキャラクター描写は、カバーの絵と雲泥の差で、あまり感心できるものではなかった。
内容とは別だが、さらに面白かったのが、登場人物の名前と地名、事件名称だ。
プログレのミュージシャンの名前、アルバムタイトルなどにちなんでいるのだ。
・ホープ・エマーソン、コール・エマーソンの兄弟はキース・エマーソンから
・カイル・パーマーはカール・パーマー
・グレッグ・リバーはグレッグ・レイク
以上、エマーソン・レイク&パーマーのメンバーから。
・ビート・ガブリエルはピーター・ガブリエル
・ミクシー・バンクスはトニー・バンクス
・スティーブ・バケットはスティーブ・ハケット
・ミック・ラザフォードはマイク・ラザフォード
・コリンズ教会はフィル・コリンズ
以上、ジェネシスのメンバーから。
・フィリップ・クリムゾンはロバート・フリップ
・ハンス・ジャイルズはマイケル・ジャイルズ
・コニー・レヴィンはトニー・レヴィン
・ピーター・エンフィールドはピート・シンフィールド
・エイドリアン・クリムゾンはエイドリアン・ブリュー
以上、キング・クリムゾンのメンバーから。
さらに地名、国名として
タルカス、アバカブが登場。
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「アースバウンド計画」「太陽と戦慄事件」なるものも登場するという徹底ぶり。
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作者は若くとも40代後半と思ったが、ウィキペディアを見たら50歳とあり納得した。
このことには全く気付かない若い人もいるかもしれないが、中年のプログレを聴いてきた人としてはちょっとうれしい仕掛けとなっている。
さらに邪教集団として登場するのが、カンサス教団!
イギリス、ヨーロッパでなく、アメリカン・プログレとしてカンサスが'70年代にヒットを飛ばしていた当時を知る人でないと、カンサスを邪教集団にする発想は出ないだろう。
ということでプログレを聴く(聴いていた)中高年の人も楽しめる漫画となっている。
作者は少年サンデーで描いていたようだが、私はまったくスルーしていた。
ほかの作品も読んでみることにする。