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ブレイク・スナイダーの映画分析本「10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 ──SAVE THE CATの法則を使いたおす!」

10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 ──SAVE THE CATの法則を使いたおす!

10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 ──SAVE THE CATの法則を使いたおす!

「SAVE THE CAT の法則 本当に売れる脚本術」の続編。
SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術

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著作「SAVE THE CAT の法則 本当に売れる脚本術」にはあまりピンとくるものがなかった。
すでにシド・フィールドやリンダ・シガー、クリストファー・ボグラーの著作を読んでいたので、それに加えての情報はさほどなかったような印象を抱いたからだ。
素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2

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ハリウッド・リライティング・バイブル (夢を語る技術シリーズ)

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神話の法則 夢を語る技術

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妙にフレンドリーでアメリカンな語り口にも正直、閉口した。

だが、今回の第2弾はよかった。
原題が「SAVE THE CAT! GOES TO THE MOVIES」。
脚本指南術の本ではなかった。
この本は「SAVE THE CAT」で提唱した手法を使い、主に'80〜00年代の映画を解析した事例集だった。

その解析のポイントは“ジャンル”と“構成”である。
以下の2つだ。
(1)著者の考案した作品のカテゴライズ方法
(2)著者の作成したブレイク・スナイダー・ビート・シートによるストーリーの構成分析

以下で簡単に(1)と(2)について述べたいと思う。

(1)著者の考案した作品のカテゴライズ方法
著者は10のストーリータイプを考案、それに基づき作品を分類している。
ここでのストーリータイプは一般的なジャンルとは微妙に違っている。
"ストーリーの特性"を著者が考察したうえでのカテゴライズである。
ここでの説明は省くが著者なりの工夫が凝らされたものだ。
「SAVE THE CAT」を読んでいないくても、タイトルと作品名からある程度想像することはできると思う。

10のストーリータイプ(そのタイトル)と分析した作品は以下の通り。

(1)家のなかのモンスター
「エイリアン」「危険な情事」「スクリーム」「ザ・リング「ソウ」

(2)金の羊毛
がんばれ!ベアーズ」「大災難P.T.A.」「プライベート・ライアン」「オーシャンズ11」「そして一粒のひかり」

(3)魔法のランプ
「フリーキー・フライデー」「コクーン」「ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合」「ハート・オブ・ウーマン」「エターナル・サンシャイン

(4)難題に直面した凡人
「コンドル」「ダイ・ハード」「愛がこわれるとき」「ディープ・インパクト」「オープン・ウォーター

(5)人生の岐路
「テン」「クレイマー、クレイマー」「普通の人々」「28DAYS」「ナポレオン・ダイナマイト

(6)相棒愛
「ワイルド・ブラック/少年の黒い馬」「リーサル・ウェポン」「恋人たちの予感」「ブロークバック・マウンテン

(7)なぜやったのか?
大統領の陰謀」「ブレード・ランナー」「ファーゴ」「ミスティック・リバー」「BRICK ブリック

(8)おバカさんの勝利
「チャンス」「トッツィー」「フオレスト・ガンプ 一期一会」「キューティー・ブロンド」「40歳の童貞男

(9)組織のなかで
「M★A★S★H マッシュ」「ドゥ・ザ・ライト・シング」「リストラ・マン」「トレーニングデイ」「クラッシュ」

(10)スーパーヒーロー
レイジング・ブル」「ライオン・キング」「マトリックス」「グラディエーター」「スパイダーマン2

ストーリータイプ10に対してそれぞれ5つのタイプの違う映画を取り上げている。つまり、取り上げられた映画は50本。
それぞれについて約5ページを使って詳細に分析をしている。

そして、さらに同タイプの映画を同族としてそれぞれに10本の映画の題名を挙げている。
つまり、
10×5×10=500
題名だけのものも含めれば500本!(かぶっているものも一部ある)が50の小カテゴリで紹介されていることになる。
ストーリーのみに注目してこれだけの本数の映画を分析した本というのはあまりないと思う。

作品のセレクトがなかなかよかった。
「エイリアン」「ダイ・ハード」「がんばれ!ベアーズ」「クレイマー、クレイマー」「普通の人々」「ブレード・ランナー」「トッツィー」「レイジンブ・ブル」といった古めの名作から「タイタニック」「ブロークバック・マウンテン」「ミスティック・リバー」「フォレスト・ガンプ」「トレーニングデイ」「マトリックス」「グラディエーター」といった比較的近作といえる名作が挙がっている。
そして時系列描写としては特殊な手法を使った「ソウ」「クラッシュ」「エターナル・サンシャイン」という映画も分析。
日本では未公開だった「バス男」→「ナポレオン・ダイナマイト」を分析しているのも個人的にはうれしかった。
作品のセレクトには好感を抱いた。
なんだかんだいって著者の好みがこのセレクトからうかがえるし、
著者が様々なタイプの多くの映画をきちんと見ていることがわかる(文章を読めば映画が大好きだということも)。語り口も前作に比べると普通で変にこびたところもなく、違和感なく読めた。

で、各ストーリータイプをどのようにさらに分類しているかを以下に書く。
一例として、(1)家のなかのモンスターの構成を取り上げる。

ストーリータイプ(1)家のなかのモンスターについては
以下のような小ジャンルに分類している。
(a)「エイリアン」のタイプは"純粋モンスター"
同族は「ジョーズ」「トレマーズ」「遊星からの物体X」「ジュラシック・パーク」「アナコンダ」「ディープ・ブルー」「GODZILLA」「インデペンデンス・デイ」「メン・イン・ブラック」「U.M.A. レイク・プラシッド」

(b)「危険な情事」のタイプは"家庭内モンスター"
同族は「恐怖のメロディ」「ゆりかごを揺らす手」「パシフィック・ハイツ」「ボディヒート」「ザ・ファン」「ルームメイト」「ダリアン」「プール」「ケーブル・ガイ」「ストーカー」

(c)「スクリーム」のタイプは"連続殺人鬼"
同族は「サイコ」「プロムナイト」「ハロウィン」「悪魔のいけにえ」「13日の金曜日」「ラストサマー」「ルール」「レッド・ドラゴン」「ハンニバル」「ホステル」

(d)「ザ・リング」は"超超自然系モンスター"
同族は「エクソシスト」「ヘルハウス」「ポルターガイスト」「悪魔の棲む家」「エルム街の悪夢」「チャイルド・プレイ」「ホワット・ライズ・ビニース」「TATARI タタリ」「エミリー・ローズ

(e)「ソウ」は"ニヒリスト・モンスター"
同族は「エロトマニア/猥褻ノゾキ」「アメリカン・サイコ」「キャビン・フィーバー」「アザーズ」「ロスト・ハイウェイ」「ヴィレッジ」「THE JUON/呪怨」「アイデンティティー」「グエムル 漢江の怪物」

さらにこの「家のなかのモンスター」ジャンルの映画でよく出てくるキャラクターとして“半人前”と名付けたものを紹介。
この“半人前”キャラクターの説明はなかなか興味深かった。ここでは説明は省くが、「ジョーズ」ではクイント、「シャイニング」だとスキャットマン・クローザース、「エイリアン」ではアッシュを“半人前”として紹介している。

そして「家モン」にあるべき構成要素として以下の3つを挙げている。
(1)“モンスター” 超自然的なパワー(たとえその力が狂気であっても)を持ち、その本質は悪だ。
(2)“家” 閉ざされた空間を意味し、家族という単位でも、町全体でも、あるいは“世界”でもいい。
(3)“罪” 誰かが家にモンスターを連れてきた罪を負っている……その罪科には無知も含まれ得る。

“モンスター”"家"“罪”という3つの要素に注目しているのだ。
“罪”の設定というのがポイントだと思った。

ちなみに「家モン」の代表作として取り上げられている「エイリアン」には主人公の成長を示す行動として、宇宙船に残された猫を救うという描写がある。
「SAVE THE CAT」という言葉はそこから来ている。……と思う。



(2)著者の作成したブレイク・スナイダー・ビート・シートによるストーリーの構成分析

ブレイク・スナイダー・ビート・シートはストーリーに対して以下のようなポイントを設定したもの。
15のポイントを設定している。

1.オープニング・イメージ(1)
2.テーマの提示(5)
3.セットアップ(1-10)
4.きっかけ(12)
5.悩みのとき(12-25)
6.第1ターニング・ポイント
7.サブ・プロット(Bストーリー)(30)
8.お楽しみ(30-55)
9.ミッド・ポイント(55)
10.迫り来る悪い奴ら(55-75)
11.すべてを失って(75)
12.心の暗闇(75-85)
13.第二ターニング・ポイント(85)
14.フィナーレ(85-110)
15.ファイナル・イメージ(110)
※()内は想定されるページ数。
1枚1分で120分の映画という想定なのだろう。

このビート・シートは、シド・フィールドの提唱したプロットポイント1と2とミッドポイントの3つのポイントに、
ジョセフ・キャンベルから影響を受け、クリストファー・ボグラーが提唱した神話でのストーリーの分岐点を取り入れたものといっていいだろう。

神話の力 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術

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この本では上記のビートシートを使って分析を行っている。
ただ、うまくはまっているものもあるが、若干違和感のあるものもある。


この本、相当な労作だと思う。
充実した内容だったが通読するのには、結構時間がかかった。
また、ある程度それぞれの映画の内容について知識のある人でないと、この本の面白さ、労作ぶりがわかりずらいかもしれない。
そして何度も読み込んで、この本での手法を自分のものにすれば創作において大いに役立つと思われる。

興味深い点も多かったので、再読した時にはまたこの文書に追記をしていきたい。

著者は故人だが、このシリーズとしてあと1冊著書を残している。
翻訳されて出版されるかもしれない。
原題は「Save the Cat!(R) Strikes Back: More Trouble for Screenwriter's to Get into... and Out of」
驚くべきことにSave the Cat!に(R)が付いている!

ちみなに前作も誤植がひどかったが今回も酷い。前作以上かもしれない。
さらに本文は前作から比較すると普通になったのに、なぜか翻訳者が“ノリノリ”の文章を書いていたのにも閉口した。
読んでるこっちからすると、こんな誤植だらけの本でよくもこんな文章が書けるものだと思ってしまう。
P219-P221まですべて「ブローク・パックマウンテン」となっている!
「Brokeback Mountain」が「Brokepack Mountain」!
これでは下手なパロディー作だ。
ほかにも一度通読しただけで誤植はいくつもあった。

この本は税抜で2200円である。
この価格でこの誤植というのは商品として問題ありだと思う。