和久井健の漫画「Abaddon」1〜2巻
実在する格闘家・五味隆典を主人公とした漫画。
中学生時代から始まり、高校で木口道場に通い、その後プロとなり連勝していくまでが描かれる。
ただし、時系列の並びはシャッフルされた形で描かれているので、過去、現在が入り乱れた形で物語がつづられていく。
「セキセイインコ」でもこのような描写方法を使っていた。
このスタイルはこの漫画家の特徴なのかもしれない。
非常に奇妙な格闘技漫画である。
格闘技漫画でありながらリング上での闘いを描いたシーンはほとんどない。
リングに上がったシーンがあり、その後、イメージ的なカットを挿入、その後は歓喜の雄たけびを上げるシーンという描写だ。
格闘技における肉体の動き、ぶつかり合いをしっかりと描くことはまったくしていない。
リング上での選手の動きを連続して描写しているシーンがないのだ。
もしかすると、この漫画家には、リング上での選手の動きを連続して描くことで物語を創るスキルがないのではないかとも思われる。
井上雄彦が「リアル」の13巻で突如プロレス漫画を展開、13巻まるごとでプロレスにおける選手入場から勝敗の決着まで肉体の動きを途切れることなく描きあげ、素晴らしいドラマを作り出したことと対照的である。
しかもここに登場する実在の格闘家は本人に似ていない。
しかも何故か格闘家なのに皆、なで肩の狭い肩幅である。
ただ、首は太い。
私は絵の上手い下手というのはわからないのだが、この漫画家は絵は上手くないのかもしれない。
ただ、妙な味がある。
下手な絵の味わいというのだうか。
アウトサイダーアートにも通じるような。
そして、カットとカットのつなぎにおいてシーンの飛躍があり、それがなかなか面白い。
下手な絵描きが妄想でつづった漫画といっては失礼か。
奇妙なセンスのある漫画家である。
個人的には面白い漫画家だと思う。
というか、変な漫画家というべきか。
巻末のアシスタント漫画に登場する作者の風貌も“なるほどこういう人ね”という感じである。
実在する人たちは、この奇妙な絵になった自分を見てどう思ったのだろう。
今はなき玉川学園前の木口道場が何度も登場するので、その近辺の地理に詳しい人間としてはびっくりした。
絶賛する気は全くないが、妙に面白いのでこの漫画家はこれからも読んでいくことにする。
散漫な感想メモだがしっかり書く必要もないと思われるのでこのままあげておく。