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恒川光太郎の小説「スタープレイヤー」

恒川光太郎は好きな小説家だ。
デビュー作の「夜市」を読み、その後、単行本の発表順に彼の小説を全て読んだ。
新作も単行本が出ればすぐというわけではないが、必ず読んでいる。
もっと評価され、もっと売れていい作家だと思っている。

ただ、読む前に期待が多すぎるためか、「面白いし、いいのだが、もっと“この先”をこの人なら書けたのではないか」という読後感を抱いてしまうのが、第2作「雷の季節の終わりに」以来ずっと続いている。
すごいものを書けそうな作家だと思うのだが……

以下、今回の「スタープレイヤー」の簡単な感想メモ。


この作家の小説では、登場人物が日常生活からかけ離れた“異界”に飛ばされ、そこを舞台に物語が展開するというパターンが多い。今回もその流れにある作品だった。
そして、今回の物語の初期設定は驚くほどシンプルだ。

30代のさえない生活を送る独身女性が、突然、神のような超越的存在から“懸賞”に当ったとして、10の望んだことを叶えることができるという権利を獲得。
地球に似た環境で近代以前の文明状況にある異世界に飛ばされた彼女は、権利取得者“スタープレイヤー”として現地人、元の世界から飛ばされてきた人間、ごくわずかに存在する彼女と同様のスタープレイヤーとともに、その絶対的な10回限定の能力を使い、さまざまな困難に立ち向かっていく。

こんな話である。
初期発想としては、話作りの得意でもない子供でも思いつくアイデアである。
簡単なゲームの設定のようでもある。

ただ、そこから物語を展開して、作品としてそれが面白いのだから流石というべきなのだろう。
しかも非常に読みやすい。300ページ以上あるが、行き帰りの電車2日で楽に読み終えてしまった。

この作家の小説は読んでいて心地よい。言葉で描かれている世界の中にいることが非常に心地よいのだ。
今回も気持ちよく読めた。
ただ、やはり今回も何か、引っ掛かるものがないのだ。

しいて言えば“葛藤”が足らない。のだろうか。
そして伏線とその収束がもっと欲しい。ような気もする。
さらに、対比する存在としての“善と悪”も誇張したほうがいいのではないだろうか。
伊坂幸太郎のように。
物語を紡ぐ才能は伊坂幸太郎よりあると思うのだが。

ただ、今回は企画もので、中学生くらいの読者が読むのに適している小説という感じだった。

楽しく読めて、読後感もよかった。
これでいいのかもしれない。

とりとめもないが、以上とする。