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伊坂幸太郎の小説「陽気なギャングの日常と襲撃」

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

陽気なギャングの日常と襲撃 (祥伝社文庫)

伊坂幸太郎の「あるキング」を読んで、結局すっきりした読後感がなかったので、またも同じ著者の「陽気なギャングの日常と襲撃」を読んでみた。

「あるキング」を読んだ感想メモ

本編を読み終わって、あとがきを読んで気付いた。
この小説は「陽気なギャングが地球をまわす」の続編だった。
「陽気なギャンクが〜」という小説が2作出ていることは知っていたが、間違えて先に続編を読んでしまったのだ。

文庫版あとがきでは著者自らが「できることなら順番に読んでいただけるとありがたいです」とまで書いていた。

というわけだが、読んでいる分には特に引っ掛かることもなく、読み進めることができた。
著者の言葉を否定するようで申し訳ないが、4人の登場人物についての知識がない分、4人それぞれのエピソードが逆に面白く読めた面もあったような気もする。
とは言え、いつもの伊坂作品、特に前回、前々回読んだ「夜の国のクーパー」「あるキング」から比べると読むのに時間がかかったのはそのせいだったのかもしれない。
1作目を読んでいれば、作品世界、登場人物の情報は知っていたので、もっとするすると読めたのかもしれない。

以下、簡単な感想メモを残す。

この著者の作品は、いつも気軽に読んでいるので作品の傾向について深く考えたことはない。
だが、そんな私でも作品群がいくつかの傾向に分けられるようだと思っている。
的確かどうかわからないが以下の3つのカテゴリ分けはできる気がする。

(1)寓話的な非日常の別世界を舞台にしたもの
(2)平凡な男が何かの陰謀に巻き込まれるもの
(3)犯罪者が主人公のピカレスク小説型のもの

上記のカテゴリの複合型もあったような気がする。
そして、これらの作品の中でテーマとしてフィーチャーされるのが、“生きることについての根源的な倫理観”だったりする。
それはシンプルで具体的な“正しきこと”として作中で発露されたりもする。
“痴漢”や“動物を殺すことは”許せん! みたいなものもあった。
そして(3)の主要登場人物も、犯罪者であるが、彼らなりの"倫理観"を持っていたりする。



話がそれそうなので「陽気なギャングの日常と襲撃」の感想に戻す。

今回は(3)の話である。
びっくりするほど初期タランティーノの映画のようだった。
レザボア・ドッグス」「パルプ・フィクション」のストーリー構造、話法、キャラクターを小説に置き換えたようだった。
彼の映画から残虐な表現を省き、全体を緩くした感じといっていいのではないだろうか。
そしてあと、もしかするとイタリア映画「黄金の七人」。
強盗団のリーダー成瀬の冷静沈着なキャラクターから「黄金の七人」の“教授”を連想した。
ただ、「黄金の七人」は古い映画で現在はあまり話題になることがない作品なので、私の勘違いかもしれない。

この小説、いつもにもまして伏線と収束がめまぐるしく展開する。
おそらく前作の部分の伏線もあると思われるので、私が感じた以上に前作を読んでいる人は、伏線と収束の波状攻撃にさらされたのではないかと思われる。

解説に
知的で小粋で贅沢な軽快サスペンス!
とある。
少々恥ずかしい表現だが、まさにそんな感じの小説だった。

まあ、面白かった。
ただ、小ネタの連続で大きな物語が魅力的になっていない。
そんな感もあった。

先に続編を読んでしまったので、第1作も読まないわけにはいかなくなってしまった。
読み終えたら、感想メモを残すことを義務付けることにする。