アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、マイケル・キートン主演の映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの作品は「21グラム」「バベル」は見ている。
正直いうとあまり好みの作風ではないという印象だった。
だが、人の勧めがあり、全編にアントニオ・サンチェスのドラム演奏が流れるということも聞き、どんなものかと思い、見てみることにした。
パット・メセニーの関係でこの人を知ったが、いいドラマーだと思う。
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前情報としては、「かつてはヒーロー映画で人気スター、だが今は落ち目の初老の俳優が〜」というようなマイケル・キートンの主演作ということしかしらなかった。
予想していたものとはかなり違っていた。
レイモンド・カーヴァーの小説を自ら脚色・主演、ブロードウェイの舞台にする男の話だった。
しかも映像的にはワンカット的に全編を見せているという変わった手法の映画だった。
シリアスな映画だと思う。そして内輪受けのネタが多かった。
映画、演劇、文学の知識が問われる。
知っている人は得々と語ることのできる映画なのだろう。
主人公は、バードマンという映画の大ヒットキャラクターを演じ、世界的大スターだった男。
だが、それも今は昔の話、現在は他の人気スターへの鬱屈した思いを抱き、それと同時にもう一度成功してやろうという野望(とはいえそんなにギラギラしたものではない)を抱いている。
そんな彼が自ら出資、主演するレイモンド・カーヴァーの小説の舞台化作の初日ステージのフィナーレまでをワンカット的な“つながった映像”で綴った人間ドラマだ。
この監督、以前は複数の出演者のそれぞれの時の流れを断片的に流し、それを交差させることで物語を展開する“パッチワーク的映像”世界を作っていたが、今回はそれとは逆の、ずっとつながった映像で世界を構築している。
この手法ができたのは、おそらくパッチワーク的映像で培った“映像編集”の構成力があってのことだろう。
ワンカットにするためにはあらかじめ、どのように映像をつなげてどうシーンを構成していくかをきっちりと決める力がなけれぱとうていできないものだからだ。
そういう意味ではこの監督において“編集”というのは非常に重要なポイントであるのだろう。
で、個人的な感想だが、今回もイニャリトゥ監督の作品はあまり私にはピンとこなかった。
あまりネタバレ的なことが問題となる映画とも思えないのでラストを書く。
舞台が成功するか失敗するかで思い悩む主人公は、さまざまな問題と直面し次第に錯乱(もしかしたら元からそういう人だったのかも)していく。
映画では、当初、主人公は、念動力で楽屋にあるものを動かし、“バードマン”という実在する超現実的な存在の声も聞こえる人物として描かれている。何か不思議な力を密かに持つ人のように。
だが、物語が進むにつれ、それは主人公の妄想でしかないことが示される。
そして、どこまでが現実で、どこからが現実でないものなのかが次第にわからなくなっていく。
特にラストについては妙な展開となっている。
雑誌やネットでの解説、レビューは読んでいない時点で、私なりの初見の感想はこんな感じだ。
舞台初日のラストで主人公は、あるのっぴきならない(ちょっと情けない)事情によりパンツ一丁で劇場外一帯を練り歩いた後、ステージに上がり、拳銃で頭を打ち抜く。
頭を打ち抜いて死ぬというのは劇のエンディングでもある。
結果、変わった演出といわれても済むエンディングになっている。
ここでシーンが切り替わる(切り替わったと思う)。
その事件の後の世界が映画で描かれる。
そこでは主人公は鼻を銃で吹っ飛ばしただけで、生命に支障はなかった。
整形外科手術でご面相はすっかり変わったが元気になっている。
そして舞台初日の評判は上々。
主人公と初日前夜にやりあった女性有名評論家は初日の舞台を「無知がもたらす予期せぬ奇跡」(The Unexpected Virtue of Ignorance)と題した記事で絶賛していた。
看病する娘と交流した後、一人になった主人公は、病室の窓からジャンプする。
部屋に戻ってきた娘は、父がいないのに気づき、窓から下を見る
そして怪訝な顔で上方を見る。
すると娘は大きく目を見開いて微笑む。
そしてそこに妙な青い光が降り注ぐ。
(終)
である。
(主人公はバードマンとなって飛び去って行った……)
というところなのだろうか。
あまり気持ちがシンクロしないで見ていたので若干違うところもあるかもしれないが、こんな感じだ。
普通に考えて、主人公は舞台上で頭を打ち抜いて死んだのだろう。
その後の映像は、死んだ主人公に意識があれば思ったかもしれない“理想の”エンディングということなのかもしれない。
ただ、なんか私にはしっくりこない。
で、一体なんなの?
という思いを抱いた。
結末をはっきりしろよ!
という感じだ。
それっぽいがなんだか意味不明である。
例えば
飛び降りたはずの父親が窓枠かなんかにしがみついていて下を見た娘と目があった。
このくらいのほうが私的にはしっくりくる。
ただ、それだとリアルな世界での終わり方になってしまうが……
変に美しい感じだが、意味がないものに仕上げているように思える。
多義的に終るあいまいなエンディングもありと私は思う人だが、これは個人的には“気に入らなかった”。
全体に内輪ネタが多く、中途半端なペダントリーが私には鼻につき、あまりいい印象を抱かなかった。
しかもヌルイ。
恵まれた環境で追い詰められたといっても、所詮セレブの悩みごとといったレベルである。
この中年(初老)の男に共感することは日本人には難しいだろう。
別にセレブの悩み事でもいいのだ。
だが、ここで描かれていることについて、私にはピンとくるものがほとんどなかった。
ワンカット趣向の“映像体験”は面白いとは思ったが、上記の理由などもあり、
やはりこの監督は私には合わないなと思った次第である。
ブロードウェイの舞台を題材に、死を前にした主人公の現実と妄想が混ざり合う世界という点は、
私の友人が指摘していたが、「オール・ザット・ジャズ」あたりに通じるところもあるのかもしれない。
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ユーチューブで一部の映像を見たら、非常にオモシロそうなので偏見を持たずに見ておけばよかったと思った。
時間があるときに是非見てみたいと思った。
この映画よりは好みなのではないかと思った。
あっちは歌と踊りではあるが。
ちなみにvirtueって「徳」「美徳」と理解していたのだが、
「奇跡」という意味もあるのだろうか?
「無知な奴も思わぬところでいいとこあるよ」という意味かなと思ったのだが……
よくわからん。
これは作品にピンとこなかったので、調べずに書いた感想メモです。
この映画を見て感動した人が違和感を抱くことがあるようなことがあればお詫びします。
あくまでも、初見のピンと来なかった人の感想メモなので。
アカデミー賞で作品、監督、脚本、撮影と作品において最も重要な賞を総なめにしている映画なので、普通に考えれば名作中の名作。
私の感想は多分少数派ではないかと思われます。
私が映画を見るときに重視するのは、「何をどう描くか」の「何を」なので。
「どう描くか」という意味では素晴らしい出来だと思う。
ブライアン・デ・パルマの「スネーク・アイズ」は'98年の映画だが、冒頭ワンカット十数分の映像が公開時に話題になった。
16年で映像技術はここまで進歩したのだ。
そういう意味でも興味深い映画だと思う。
アントニオ・サンチェスのドラムについては、まあ、あんなものか的なもので、特に深い印象は残さなかった。
マイケル・キートンは最近見ていなかったが、昔のサイコ的な表情がすっかりなくなっていたのが印象に残った。
これなら近年のビル・マーレー的な役もできるのでは。好印象を抱いた。