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萩尾望都の漫画「バルバラ異界」

バルバラ異界 1 (小学館文庫 はA 41)バルバラ異界 2 (小学館文庫 はA 42)バルバラ異界 第3巻 (小学館文庫 はA 43)
バルバラ異界 文庫版 コミック 全3巻完結セット (小学館文庫)
萩尾望都「メッシュ」を読んだので、同じ作家の2000年以降の作品も読んでみようと思い、この時期の有名な作品「バルバラ異界」を読んでみた。
今回、初めて読んだ。
そしてちょっとないくらい濃密な漫画読者体験ができた。読んだのは小学館文庫版。

2002年から2005年に月刊フラワーに連載され、日本SF大賞を受賞した作品。
漫画でこの賞を受賞したのは大友克洋の「童夢」(「AKIRA」ではない)以来、2回目とのことだ。

個人的には萩尾望都の作品は、読んで夢中になるケースとそうでもない場合の落差が激しい。
ポーの一族」「トーマの心臓」には夢中になったが、ほかの作品はそうでもなかった。
好みの問題だと思うが、個人的にはあまりピンとこない“はずれ”の作品もあったので、熱心な読者ではなかった。

そういう意味では今回の「バルバラ異界」はちょっとないくらいの“あたり”だった。

文庫でたった3巻の話なのだが、こんなに作品世界に没入したのは久しぶりだった。
夢中になって読んだ。
漫画の世界と自分がシンクロするとでもいうのだろうか、そんな漫画体験ができた。
正直、びっくりした。
特に1、2巻を読み進めるときは意識が漫画にすっかりはまりこんでいた。

未来社会のSFでもあり、謎が謎を呼ぶサスペンスでもある。
意外な新事実の提示というストーリーを転がしていく展開も見事で読んでいてまったく飽きさせない。
才能あるベテラン作家の巧みな仕掛けで物語にすっかり夢中になってしまった。

そして、親子の物語でもあり、愛の物語でもある。
さらに、「現実の世界」と「夢の世界」との不思議な関係性、「夢が現実に影響を与え、世界を変えていく」という不思議なテーマも説得力を持たせ、しっかり描いている。
世界や物語がいい具合に多層的に構成されているのだ。
味わい深い作品だ。

3巻終盤での、現実が、パラレル世界的に広がっていく展開に若干ついていけないように思ったが、再読してみると「これもありか」と思えた。

ラストがもう少し余韻のある感じにしてくれたら個人的にはもっと気に入ったのだが……
ここまで素晴らしい作品のエンディングシーンにしては軽い終わり方で、あれっと言う肩透かし感があった。
短編、中篇のラストシーンという感じなので。

ポーの一族」が年老いない一族の話だったのに対して、こちらは正反対の“すぐに年老いてしまう一族”の話というのも興味深かった。作品世界としては呼応するものを感じた。
ポーの一族」の感想メモを読み返したら、30年の時の隔たりがあっても「ポーの一族」と「バルバラ異界」に共通するテーマ、ディテールがあった。
そして、その中で自分に訴えてくる部分は変わっていないということを再発見してちょっとびっくりした。
「ポーの一族」感想メモ


残酷な神が支配する」も読んでみることにする。

キャリアの長さ、スタイルの変遷を考えると、萩尾望都という作家は、日本漫画史の中でも突出した存在だと思う。