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映像、書物、音楽などについての感想

ピエール・バルーの自伝的著作「サ・ヴァ、サ・ヴィアン 目をあけて夢みる者たち…」

 ピエール・バルーが日本向けに発行した世界で初めての著作本

サ・ヴァ、サ・ヴィアン―目をあけて夢みる者たち…

サ・ヴァ、サ・ヴィアン―目をあけて夢みる者たち…

 

ピエール・バルーが亡くなったことを知ったのは今年になってだった。

ネットで記事をいくつか読んでいるときに、彼が日本で書籍を出したということを知り、手に入れて読んでみた。
読み始めて驚いたのだが、この本はフランスで出版されたものの翻訳ではない。
日本で出版するためにオリジナルに作られた書籍である。
しかも彼の著作としての書籍としては、世界で初めてのものだという。
日本に拠点ももち、妻が日本人であるということもあるが、
こんな書籍はなかなかないと思う。
アマゾンに載っている書誌データは以下の内容。
ちなみに発行日は2006年4月12日。約10年前だ。

内容(「BOOK」データベースより)
出会いは日常の冒険から始まる…"私たちは人生という川を流れるコルク栓のよう…行ったり来たり。誰も先のことは知らない。けれど素晴らしい冒険の扉はいくつも開かれている。心の準備さえして身をまかせればいい…"フランス映画の名作『男と女』で、一躍世界にその名を轟かせたピエール・バルー。自ら立ち上げたサラヴァ・レコードの創設40周年を記念し、初の著作本を世界に先駆けて刊行!…出会いと歌、旅と音楽、冒険と映像…音楽家、作詞家、映像作家、俳優、プロデューサーとして、数え切れない友情に包まれた人生と、珠玉の名曲の数々を、創作エピソード、貴重な写真と共に綴る!サラヴァ・レコード創設40周年記念出版。ピエール・バルー、世界初の著作本。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
バルー,ピエール
音楽家、作詞家、映像作家、俳優、プロデューサー。1934年2月19日パリ生まれ。1960~1961年フランシス・レイと組んで、楽曲制作を始める。1966年『男と女』の主題歌が世界中で大ヒットし、世界各国でカヴァー・ヴァージョンが作られる。以後、数々の賞を受賞。1994年~1997年フランス共和国より、芸術文化勲章オフィシエ章を受勲。2000年~2002年フランス共和国より、芸術文化勲章功労賞を受勲。2006年、「サラヴァ・レコード創設40周年記念」のコンサートを、フランスの40ヵ所の会場にて開催予定

バルー,あつこ
慶應義塾大学文学部仏文学専攻、パリ第5大学文化人類学科卒。1990年より、サラヴァ出版(仏)の経営に携わる。アート・プロジェクト「ラミュゼ・ド・ケヤキ」主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

バル―についてはブリジット・フォンテーヌやルイス・フューレイのアルバムを出したサラヴァ・レコードの主催者であるということで知った。

 

ラジオのように

ラジオのように

 

  

ザ・スカイ・イズ・フォーリング

ザ・スカイ・イズ・フォーリング

 

 

日本人アーティストとの共演による『ル・ポレン(花粉)』『シエラ』というアルバムはリアルタイムで聞いていた。

ル・ポレン(花粉)(紙ジャケット仕様)

ル・ポレン(花粉)(紙ジャケット仕様)

 

 

シエラ

シエラ

 

80年代前半ニューウェイブの時代、もう30年以上前のことだ。

ステージは見たことがないが、彼の発表するアルバムは時折チェックして聴いていた。
サラヴァの10周年記念コンピレーションの『LES DIX ANS DE SARAVAH』はカセットテープに録音してウォークマンでよく聴いた記憶がある。

で、この書籍の感想メモを残す。

 

素晴らしい書籍だった。
大手の出版社で発行される自伝ものとは一味違う、手作り感のある構成、内容に魅了された。
サラヴァという個性的なインディーズレーベルを主催してきた人ならではの独特の魅力がある本だった。


一応バルーの自伝的な内容ではある。
だが、誌面はかなり自由な構成となっている。
彼の代表曲の歌詞(仏語、日本訳)を掲載し、曲のいきさつ、そのときの曲で試みたことを語った彼の言葉が随所に散りばめられ、
そこに幼年期からの貴重な写真、さまざまな旅の記憶、さまざまな国の人々との出会い、映画のことなどなどが載っている。
それぞれが緩い感じで構成され杓子定規な自伝にとどまらない、バルーという人の人生が感じられる内容となっている。

そして、その人生は私が思っていた以上に波乱万丈で自由なものだった。

スペインから移住してきたユダヤ系フランス人として生まれ、ナチス占領時の第2次大戦中にはゲシュタポから逃れるため、フランスの農村地帯、自然豊かな環境で里親と暖かな日々を過ごした幼年期。
家の隣にあった映画館「シネマ・エデン」でマルセル・カルネ監督、ジャック・プレヴェール脚本の「悪魔が夜来る」を見ることで人生が変わったと語る少年時代。

 

悪魔が夜来る [DVD]

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 ヨーロッパ、イスラエルなどを放浪、その後フランスのバレーボールのナショナル・チームに所属したという青年期。

その後、クロード・ルルーシュとの出会いで映画「男と女」の製作にかかわり出演、音楽も担当して一躍成功したというエピソード。

 

 立川直樹の誘いで、日本に初来日、日本に滞在しながら日本人ミュージシャンと録音したソロ・アルバム『ル・ポレン』での制作の話などなど。彼はスクーターで東京の街を移動していたという。

読みどころは満載だ。
そして、そこで語られるバルーの人生観が非常に心を打った。

生きることをまっすぐに楽しむという人生観とその足跡が各ページの文章、写真から伝わってくる内容だった。

バルーの朝日新聞に彼の死亡記事として音楽評論家の松山晋也さんのコメントが載っていた。私はバルーについて語るほどの見識はないが下記のコメントに同感だ。そしてこの本はそのことがよく伝わってくるものとなっている。

表現者/プロデューサーとしてのピエールが生涯をかけて我々に語り続けたのは、夢や欲望にまっすぐに向き合う勇気と情熱の大切さ、ということだった。この強烈な楽天主義こそが、彼の才能と魅力の本質だったと思う」

仏音楽家のピエール・バルーさん死去 映画「男と女」:朝日新聞デジタル

(写真はもっといいのを使ってほしかつた……私としては晩年のバルーは下記のイメージだった)

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 ※上記はラミュゼからの写真です。撮影クレジットがあるので使わせてもらいました

作家紹介:ピエール・バルー(Pierre Barouh) | L'AMUSEE

 

ca va ca vient ceux qui revent les yoeux ouvertz
(行ったり、来たり 目をあけて夢見る者たち)

というタイトルがふさわしい書物だった。

ピエール・バルーの音楽、そこから感じる世界観に魅力を感じる人なら強くお勧めしたい本です。

※奥付には

著者 ピエルー・バルー

翻訳 あつこ・バルー

■編集部より

※本書はピエール・バルーのインタビューをもとに、構成、編集しました。

 との言葉があった。