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ケイト・ブッシュ「ディレクターズ・カット」、そしてピーター・ガブリエル「ニュー・ブラッド」について少々

「センシュアル・ワールド」と「レッド・シューズ」からセレクトした曲に新規録音のトラックも加えて再構築したもの。

'89年の「センシュアル・ワールド」以降、ボックスセットを除くと
'93年「レッド・シューズ」
'05年「エアリアル」(2枚組アルバム)
'11年「ディレクターズ・カット」
と約20年間で4作品しか発表していないのだから、ポップ・ミュージックの世界では相当に寡作なアーチストである。

ケイト・ブッシュ自身は、この新作について
「もう、何年か『センシュアル・ワールド』と『レッド・シューズ』の曲の一部を見直してみたいと思ってたんです。それでミュージシャンたちのオリジナル演奏でも特に素晴らしい部分はそのまま残しつつ、新たなシーンや感触を加えて、すべてをまたひとつに縫い合わせてみたところ、いわば“ディレクターズ・カット”―映像ではなく、音のですが―ともいうべきものになりました。そしてこれらの歌を再び歌おうとしてみたら、まるでドアを違う鍵(キー)で開けようとしているかのような感じでした。それで、キーを換えてみたらドアが開いていったの…。」
とコメントを残している。

20年前の作品に対してもこれだけの情熱をかけて手掛けることができるというのは、今の時代からすると驚嘆すべきものではある。

で、聴いた印象だが、確かに「ディレクターズ・カット」はベスト・アルバムというよりは、2つのアルバムが一体化した新しい1枚のアルバムとして聴くことのできる作品に仕上がっている印象。

1曲目の「センシュアル・ワールド」を改題した「フラワーズ・オブ・マウンテン」では、かねてより歌詞をつけたいと願っていたというジェームズ・ジョイスの「ユリシーズ」のラストの一節を歌っているとのことだ。
ただ、私は「ユリシーズ」は未読なのでどのような意味あいでこの歌詞を使っているのかはわからない。
この曲では以前と違いキーを低くして、深みのある歌を聞かせてくれる。
聴きなれた現在では「フラワーズ・オブ・マウンテン」の方が私には「センシュアル・ワールド」より心地よく聴けるようになっている。

1曲ずつを比較しているわけではないが、全体として時間を費やして手を掛けているだけあり、月並みな表現だが、深みと味わいは増しているのは間違いない。聴けば聴くほどによさが分かってくる感じだ。
聴いて損のないアルバムだと思う。
前作「エアリアル」もよかったので、いずれ発表される新作にも期待ができそうだ。
気長に彼女のことは追っていきたい。

ディレクターズ・カット

ディレクターズ・カット

ちなみにピーター・ガブリエルも旧作を別アレンジでライブ新録音した「ニュー・ブラッド」を発表しているが、あちらはどうも?な内容で、ファンとしてはどう聴いたらいいのかわからずに困っている。
別に管弦楽を導入してもいいし、シリアスな曲調でもいいのだが、なんというか何かが足らないように思える。真面目に取り組んでいるのは伝わってくるのだが。

New Blood

New Blood

30年以上ファンだった身としては「さよならピーター」と言いたくはないので拒否もできないし……
ピーター・ガブリエルの変化については、いつかまとめて書いてみたい。

とはいえ、非常に特殊な意見かもしれないが、
ピーターの音楽的変化については、個人的にはハゲが進行したことが契機の一つなのではないかと私は思っている。
ヅラで若づくりをしているロック(ポップ)スターが多い中、ピーターはそれを拒否することで今のスタイルになったのではなどと思っている。
もちろんこれは卑近な理由のひとつでしかないと思うが、一面はついているのではないだろうか。

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以上は視聴レベルでの感想。
「ニュー・ブラッド」ちゃんと聴いたら、これは力作だった。
ちゃんと聴かずにこんなことを書いてしまった。恥ずかしい……

選曲については微妙なところもあるが、私は楽しめた。
「Ovo」から2曲というのも興味深い。
ただ、この作品についてあまり語る気にはなれない。
“New Blood”というタイトルにふさわしいセルフカバー集にはなっているが、
「これは何だ!」みたいな新鮮な驚きはなかったので。
もう一歩外に出てほしいという気もするのだが……でも、62歳ですしね。

アマゾンのレビューを見ると2枚組は1枚がインストゥルメンタル・バージョン集となっているようだ。こちらも入手したい。

聴きました。
カラオケでした。
意外に自分が歌えるのにびっくりした。


New Blood

New Blood