見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

デビッド・フィンチャー監督、ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ出演の映画「ドラゴン・タトゥーの女」

なかなか見れなかったのだがやっと見ることができた。
8時半からの上映で見たのだが、意外に劇場は混んでいた。

原作は読んでいないが、ごく大まかなプロットは知っていた。
ただ、長大なミステリーなので複雑に入り組んでいる話ではないかと思い、話についていけなくなるのを少し心配していた。
だが、さすがデビッド・フィンチャー
原作から何をどう抽出したのかはわからないが、
だれることなく展開する映像に見入ってしまった。

前半は主人公のミカエルと、その助手となるリスベットの話が並行して語られる展開。
両者は出会うことなく別々に物語は進んでいく。
2人のドラマは無造作に切り替えられながら進む。
だが、その切り替えが素晴らしく、見事なテンポ(ビート)で物語が進んでいく。
そして、両者が会うのは多分物語の真ん中にあたるミッドポイントくらいの印象だった。
そこへ収束していく流れがとてもよかった。
原作ではどうなっているのだろう、と思った。

前作「ソーシャル・ネットワーク」では封印していたフィンチゃーの暴力的、変態的嗜好だが、今作は、かなり出している。
原作にもある程度あるのではないかと予想される。

一番面白かったのは、ミカエルが処刑室で犯人に拘束され、吊るされているシーン。
ミカエルの処刑を前に、犯人が陰惨な場面にそぐわない、なんとも清涼感あふれる音楽を流す。
どこかで聴いた曲だったが思いだせない。
後で、ネットでサントラの資料を見たのだがわからない。
“sail away,sail away,sail away〜”の歌詞から検索してやっと分かった。

この曲は、癒し系の音楽として人気のあったエンヤの「オリノコ・フロウ」。
http://www.youtube.com/watch?v=xfVJ11GXzXQ

ウォーターマーク

ウォーターマーク

サントラには収録されていないようなのでネットで検索してもわからなかったのだ。

選曲したのはトレント・レズナーデビッド・フィンチャー、どちらか知らないが、あの変態的なシーンでエンヤというのはやはり面白いセンスだと思う。
ソーシャル・ネットワーク」の最後に流れたビートルズの「ベイビー・ユー・アー・リッチマン」的な皮肉めいたセンスを感じた。

でも、エンヤはこんなシーンで使われたと知って激怒したのではないだろうか。

個人的にはテーマ曲となったツェッペリンの「移民の歌」のカバーよりも興味深かった。

非常に面白く見れたのだが腑に落ちないところもあった。
この映画158分と120分標準の映画のランタイムからすると、長い。
そして犯人が判明して、事件も一件落着した後の話が長い。
原作を知らず、これ1作と思っている人なら、そこでちょろっとエピソードを語って終えてもいい感じだ。

その終盤ではミカエルの汚名返上と落とし前、そしてリスベットの変化と献身が描かれている。

ミカエルの汚名返上と落とし前はあってしかるべきものだが、奇妙なのがリスベットの変化。
人間的な感情表現については障害のあるリスベットが、ミカエルと結ばれ、普通の恋する女の子と化していくことが描かれているのだ。
ラストシーンは“乙女の純情”という終わり方である。
変態男をスタンガンで悶絶させ、あげくに全裸で縛りつけてアナルにお仕置きをする女が、あそこまでなる?
人間の変化を描くのがドラマだが、あまりに唐突な展開だった。
原作ではじっくりとこの変化が描かれていると予想される。
デビッド・フィンチャーは感情の機微とか描くことに興味がない人だと改めて思った。

これって3部作になるのだろうか?
もし、この1作で終わったら、中途半端なエンディングということになるだろう。