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映像、書物、音楽などについての感想

安藤昇のエッセイ「男の終い支度」

書籍

男の終い仕度

男の終い仕度

私の大好きな映画「男の顔は履歴書」で主演している安藤昇が、近年になり「家相」の本などを出していることをたまたま知った。

安藤昇関連本は読んだことがなかったので、図書館で借りてこの本を読んでみた。

安藤昇という人物の経歴は波乱に富んでいる。破天荒といっても間違いではないだろう。

この本のカバー裏の略歴を引用されてもらう。

大正15(1929年)年5月24日、東京生まれ。特攻隊から復員後、28歳で安藤組を結成、渋谷を本拠とする。昭和33年、横井英樹襲撃事件で服役。出所した39年に安藤組を解散、映画界に転身。58本に主演するなど人気俳優として一時代を築く。現在は作家、映画プロデューサーとして活躍中。

安藤組を結成するまでをウィキペディアで補足すると

15歳で感化院に、18歳で多摩少年院に収監されるなど、荒れた少年時代を送った。予科練の試験に合格し恩赦で少年院を退院、三重海軍航空隊に入隊後海軍飛行予科練習生へ配属。1945年(昭和20年)6月、神奈川県久里浜の伏龍特攻隊に志願し配属が叶い生死を伴う苛酷な訓練を受けるも、2ヶ月後に終戦となり、除隊。1946年(昭和21年)、法政大学に入学するが、翌1947年(昭和22年)退学し、仲間達と共に愚連隊(不良青少年グループ)を作った。

となる。

安藤の特攻隊は飛行機乗りではなく伏龍特攻隊である。

ウィキペディアでの伏龍の解説

人間自身が上陸する敵の船に取り付いて自爆するものだ。人間機雷といっていいのだろう。
恐るべき特攻隊である。

しかも、やくざが刑務所から出所、その直後に映画で主演してヒット作を飛ばす。
阿部譲二のように作家になった人間はいるが、ここまで極端に転身を成功させた人は彼くらいなのではないだろうか。
そして、こんなことがあり得たというのは今の日本ではもはや想像もできない。
戦中、戦後の混乱期とはいえ飛びぬけて波乱の人生を送った人物である。

私は「男の顔は履歴書」をはじめ何本か彼の主演映画を見たが、魅力的な俳優だったと思う。
セリフまわし、演技力についてはよくわからないが、映画の中で独特の魅力と胆力を発していたのは強く感じた。

たぶん最後に彼が主演した映画を見たのは唐十郎が監督・脚本の「任侠外伝・玄海灘」だったと思う。

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内容のことはすっかり忘れている。唐らしい奇妙な映画だったとしか覚えていないが、安藤の凄味のある存在感に魅了されたことは微かに覚えている。

その後、安藤組関連のオリジナルビデオ作品で製作にかかわり、さらに安藤昇本人として登場していたらしいが、それらの作品は見ていない。

この本が出版されたのは2012年の9月3日。
83歳ということになる。

で、以下にこの本の簡単な感想メモを残す。

3つの章立てになっている。
第1章 勃つうちが花
第2章 「人生の保険」は不要
第3章 自分に折り合いをつける
第4章 独生 独死 独去 独来

勃つというのはもちろんアソコのことである。
元やくざらしい、保守的で男性本位のセックス観があけすけに語られる。
ただどこか達観したところがあり、文章を読むと男性本位でいながらも相手のことを配慮していることもわかる。
読んでいて不快感はない。
しかし80代にして勃つというのはかなりのことではないかと思う。
そして、現在に至るまで毎朝ビフテキを食べ続けていたというのだから恐れ入る。

通読した感じたのが、この人は達観した快楽主義者であるということ。
安藤の世界観・価値観をそのまま受け入れることは私にはできない。
だが、読んでいて不快感はなく、むしろ心地よい。
納得できることも多々ある。
それは放言集でいながら、文章の根底に先にも書いたようにどこか生きることに関して“諦観”した部分があるからだろう。
カバー裏に載っている著者近影もなかなかよい顔をしている。
時間があればほかの本も読んでみたい。