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中野剛志「TPP亡国論」

TPP(環太平洋経済連携協定 呼び名は確定していないようです)を検証し、その否定的側面を解説した本。

前書きで著者は、
国際社会における日本の特色として、戦略的思考回路が欠けていることが問題と指摘している。
そして、そのことが国益を損ねかねないと主張。
そして「TPPという穴をのぞくことで、リーマン・ショック後の世界の構造変化、そして日本が直面している問題の根本が見えてくるのです。ですから、それらを頭に入れておけば、今後、TPP以外の政治経済的な問題に対処するにあたっても、きっと役に立つことと思います。」(P7)と語っている。

著者は自由貿易の弊害を強く主張し、保護貿易の利点を強調する立場にあるようだ。
裏表紙のプロフィールによると、著者は経済ナショナリズムなるものを専門とするようだ。
そのような著者が、“戦略”をキーワードにTPPを否定的に解説した本である。
そして最後にある提言をする。

で読み終えた感想だが、
実はこの本200ページ以上あるが、要領よくまとめれば50ページで事足りてしまう内容に思えた。
わかりやすく書いているようだが、実はわかりずらく書いており、本当に言いたいことを最後の最後まで言わずに話を進めている。
そんな印象を持った。

第一章 TPPの謎を解く
第二章 世界の構造変化を読む
第三章 貿易の意味を問い直す
第四章 輸出主導の成長を疑う
第五章 グローバル化した世界で戦略的に考える
第六章 真の開国を願う
以上、六章で構成している。

初め、章ごとにまとめたメモを書こうと思ったのだが、そこまでする必要もないと思えた。
なので書くことはしない。

著者の主張で気になった点をざっと書くと
・現在の日本はデフレである。
・TPPによる自由貿易で、輸入規制されていた海外の農作物が流入すると、価格競争で勝つことのできない日本の農業が壊滅状態に陥る。
・農作物の価格が安くなることによりデフレが悪化する。
・デフレの際に貿易自由化をすることはデフレをさらに悪化させることになる。
・日本経済の再建のためには、デフレを脱却することが最優先。
・デフレを脱却するためには公共投資が有効だ。まず、需要を内需を生むことが必要だ。

・TPPの交渉参加国のGDPの規模はアメリカと日本を合わせると全体の約90%を占める。
・つまり日本が参加した場合のTPPは実質的に日米FTA(自由貿易協定)である。ほかの国とは量的スケールで日本とは釣り合わない。
・その実情からすると日本がアジア太平洋の成長を取り込むなどというのは悪い冗談である。
・中国、韓国はTPPに参加しそうもない。両国は戦略的な理由でTPPに参加しない。
・TPP各国の交渉はアメリカ主導で進むことが予想される。

・国際金融市場の自由化(金融のグローバリゼーション)をアメリカが進めたことで、世界の景気動向は良い方向にも悪い方向にも増幅された形で動くようになった。
・金融のグローバリゼーションには1期と2期がある。
・1期はアメリカが金融市場の自由化をすすめた'80年代から'98年のアジア通貨危機まで。
・2期はアジア通貨危機からリーマンショックの時期まで。
・1期は無軌道な金融自由化に乗って経済成長を続けた東アジア諸国が、先の増幅作用で資金不足でクラッシュ、各国に連鎖反応を起こすまで。
・2期は警戒心を強めた東アジア諸国が、クラッシュを恐れ手持ちの金を手放さないように経常収支黒字を貯め、その金をアメリカ国債を買うなどして資金がアメリカに流れ、その金がアメリカ市場の強気な空気を生み、さまざまな金融商品を生むなどし実体から離れたアメリカ国民の過剰な消費を生み、しまいにクラッシュに至るまで。
・2期のグローバリゼーションにおいてグローバル・インバランスといわれる問題が生まれた。
・グローバル・インバランスとはアメリカだけが輸入し、一方的に経常収支赤字を積み上げる一方で、東アジア諸国は輸出一本やりで、経常収支黒地を貯め込む世界的な貿易不均衡のこと。この不均衡はもう持続不可能な状況にある。
オバマ大統領は「輸出倍増戦略」を打ち出したが、そこには2つの目的がある。
・1つ目はグローバル・インバランスを解消すること。そのことで世界経済の安定化を入る。日本にアメリカ生産物の消費者となってもらう。
・2つ目はアメリカ自身の経済安定化のため、日本にアメリカ生産物の消費者となってもらうこと。
・官僚、政府は以上の事情がわかっていると思えないトンチンカンな期待を抱いてTPPに臨んでいこうとしている。
・TPPにおいてアメリカは日本の農場市場の開放を望むが、日本はアメリカに対して強気に戦略的に主張を押し通すことができない。
・食料をアメリカに握られることで食料自給において大きな不安を抱えることになる。

・アメリカに対して強気に戦略的に主張を押し通すことができない理由は日米安保条約により、軍事的にアメリカに守られているという意識(無意識)があるため。
・外務省は自主防衛が嫌なのでTPPに賛成と考えている。そしてそれは外務省だけでなく政府、官僚、マスコミに根付いている。
・日本は自主防衛の方法を模索すべき時期にきている。

かなり雑だがおおむねこういうことなのだろう。

実はTPPのことを書いているが、著者が本当に主張したいのは自主防衛のことなのではないだろうか。

「本書の議論も、いよいよ、問題の核心に迫りつつあるようです。それは、国富を守り、国家の独立を維持するために必要なパワーの問題です」(P222)
TPPの本というのはあるが、それにしても結論の自主防衛に触れるのが遅すぎる。
もっと早くにこのことに触れた上で、TPPについての解説を進めるべきだと思う。
これも“戦略”なのだろうか。

結論として、著者は得々と(ページが進むごとにそれは顕著になってくる)TPPについて語っているのだが、
正直あまりピンとこなかった。
それは、TPPについての検証するというよりは、否定することを前提とし最後に、自主防衛に着地点を置くため論を進めているように思えたからだ。

この本を読んだだけではTPPというものについての総合的な知識を得ることができなかった印象がある。

また
論旨を自分に都合よく展開することと(結構突っ込みどころと思える部分はあった)、著者の功名心、権威への追従が見える気がして読後感はあまりよくなかった。
ジャンルは違うが
先日読んで感心した「市民科学者として生きる」の高木仁三郎が理想家なら
この本の著者は理想(理念でもいいが)を提示しない(見せていない)戦略家だからなのかもしれない。
文は人なりという言葉を思い出した。
後でニコ動でこの人が語るのを見て、「あー、やっぱり」という感じだった。

メモをつけるのにも力が入らなかったが、メモをつけないと書かれたことは確実に忘れると思われるのでメモを取った。
読んで損した感じもある。
ほかの人のこの本への書評は読んでいないのだが、この本て評判いいのだろうか。

TPPはほかの本も読んでみることにする。

TPP亡国論 (集英社新書)

TPP亡国論 (集英社新書)