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パット・メセニー『ホワッツ・イット・オール・アバウト』

昨年出たアコースティックのソロ・アルバム。
現時点での彼の最新作となるはず。
これで、ソロ、パット・メセニー・グループの作品はすべて聴いたことになる(ウィキペディアのアルバムリストを見る限りでは)。
コラボレーションものでは聴いていないものはまだあるので、そちらもそのうち入手したいと思っている。

今回は全曲がカバーとなっている。有名な曲が多い。
曲目は以下の通り
1.サウンド・オブ・サイレンス サイモン&ガーファンクル
2.チェリッシュ
3.アルフィー
4.パイプライン ベンチャーズが有名
5.イパネマの娘 アントニオ・カルロス・ジョビン
6.雨の日と月曜日は カーペンターズポール・ウィリアムズロジャー・ニコルズ共作)
7.幸福のノクターン カーリー・サイモン
8.スロー・ホット・ウインド ヘンリー・マンシーニ
9.ゴーリー・ワウ スタイリスティックス
10.アンド・アイ・ラブ・ハー ビートルズ
11.ラウンド・アバウト・ミッドナイト セロニアス・モンク
12.ジス・ニアリー・ワズ・マイン ミュージカル「南太平洋」より

実は今回のアルバム、最初はあまりピンとこなかった。
基本的にバリトン・ギターを使ったオーバー・ダビングなしのアルバムということで、2003年の『ワン・クワイエット・ナイト』の流れを汲むものだろうと思った。ジャケットもそういう感じだ。

ワン・クワイエット・ナイト

ワン・クワイエット・ナイト

だが、聴くとかなり感触が違っているように思えた。

だが、何回も聴いているうちに次第になじんできた。

今回は有名曲のカバー・アルバムとなっているので、メセニーとしては原曲をどのように作り変えるかという点で、奏法についてかなり注力したのではないだろうか。
そのわかりやすい例が、ピカソ・ギターを使った「サウンド・オブ・サイレンス」だと思う。
ピカソ・ギター

演奏は、主旋律と掛け合うように、さまざまな装飾音が響き渡る曲だ。
闇の中で密やかに光る線香花火のような趣。
以降、バリトン・ギターによる各曲でもアコースティック・ギター1本で、どう音を響かせるかということに注意を払っているように思えた。
極端にテンポも変え、指のピッキングにしても爪のはじき方での二ュアンスの出し方に注意を払い、フィンガリングで弦のこすれる音も演奏の一部として意識しているように聞こえる。
その分、曲の姿が見えずらくなり、初めの印象は散漫に聞こえたのだが、耳をすましてじっくり聴き込んでいくと、とても奥深い世界が広がってきた。
『ワン・クワイエット・ナイト』とはそのあたりが違うのではないか。
比較すると、あちらは“ストレートに”弾いていたように思える。
まだよくわからないが、今のところそんな印象だ。

バリトン・ギターのことはあまり意識したことはなかったのだが、ライナーに書いてあったメセニーの言葉によると、チューニングは5度落としているようだ。なかなか味のあるギターの音だ。

でも、「イパネマの娘」については、まだ違和感がある。
これでは「イパネマの娘(の憂鬱)」という感じである。
ここまでしなくても、とは思うのだが。
この曲の魅力はキュートなところにあると思っていたのだが、それを根底から突き崩した演奏だ。
これは、オリジナルとは別ものとして聴くべきなんでしょうね。