見て読んで聴いて書く

映像、書物、音楽などについての感想

松山ケンイチ、瑛太主演、森田芳光監督の映画「僕達急行 A列車で行こう」

見た感想を思いつくままに書く。

これは電車をネタにした“釣りバカ日誌”である。
マイペースに生きる青年が、“電車ネタ”で、周囲で起きた危機を救うという話。
そこにちょっとした恋愛話が絡む。
そして訪れる危機も、実際は深刻なものなのだが、映画ではあまり深刻には感じられないものとなっている。

このユルい空気感、予定調和の終わり方。
もしかして森田監督はあわよくばシリーズ化を考えていたのでは、とまで勘ぐりたくなる仕上がりだった。
お話は松竹お得意の内容だが、なぜか東映の製作だ。

音楽担当は大島ミチル。ユルい内容にふさわしく、あえてなのかわからないが、今どきないような間延びした音楽を提供している。

松山ケンイチはヘッドホンで音楽を聴きながら車窓の外を眺めるのが好きという電車オタク。
ミルト・ジャクソンのヴァイブ(ヴィブラフォン)の音がうんぬんと言っていたが、大島ミチルのここでの音楽とのギャップがありすぎだ。

見ているうちに、松ケンが渥美清に似ているように思えてきた。
“釣りバカ”なので西田敏行になるべきだったのかもしれないが、顔のつくりが渥美清に見えてきたのだ。
ただ、こう思ったのは私だけかもしれない。

感慨深かったのが、松ケンが住んでいるマンションの管理人役として伊藤克信がワンシーン出演していたこと。

伊藤は、森田監督の劇場映画デビュー作「の・ようなもの」で主演、その後も森田監督作にも出演していたと思う。
彼がはからずも森田監督の遺作となったこの作品に出ていたとは知らなかったので、このシーンにはちょっと驚いた。
森田・伊藤の人生の奇縁みたいなものを感じた。

ただ、全体としては退屈することはなかったが、特に引き込まれるというほどの映画ではなかった。
笑いのつぼに関しても、笑うべきか、どうするか困ってしまうような展開が結構多かった(あまりよい意味でなく)。

奇妙な演出もあった。
森田の代表作と称される「家族ゲーム」を高く評価する人がよく指摘していた、ヘリコプターの音。
なぜかこの映画でも、松ケンが都内のオフィスで会議をしている際にこの音が突然流れてくる。
一体、何だったのだろう?
自作へのオマージュか?
森田監督は時々意図の読みずらい演出をする人だったと思うが、それがうまくはまる(人が深読みをしてくれる)と高い評価を得ていたのかな、などと思った。

急に亡くなったということと、作品の面白さは別物だ。
そういう意味で、この映画に関しての私の感想は、結論としては特になんという作品ではない。
多分、監督自身も渾身の力作という意識はなかったと思う。


ただ、
デビルマン」「真説タイガーマスク」を最後にこの世を去った那須博之監督よりは、遺作としてはよかったのかもしれない。
模倣犯」でなくてよかった……