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三浦しをんの小説「月魚」

月魚 (角川文庫)

月魚 (角川文庫)

三浦しをんの小説は何冊か読んだ。
引かれるところもそれなりにあるので、これから発表年代順に読んでいこうと思っている。

今回読んだのは「月魚」。単行本2作目にあたるのだろうか。
古書店を営むタイプの違う青年2人の関係を軸にした“BL小説”といった趣だ。
ただ、表現は非常に文学的で繊細。2人の恋愛感情、肉体関係については非常に奥ゆかしく書いている。文章には具体的な表現はほとんどない。そのあたりのバランスは非常に配慮したのではないかと思われる。

第1作の「格闘する者に○」との文章スタイルの違いに驚いた。ウィキペディアの生年月日から計算するとこれを発表したのは20代の半ばだ。
こういうものもすでに書くことができたのか、という感じだ。明らかに第1作とは違ったものを志向し、そういった世界を作り上げている。

表現的には“ストーリー”よりは、文章表現による醸しだされる“感覚的なもの”を目指している作品のように思えた。そして、それはかなり成功している。

ただ、主人公の父の描き方には正直シンパシーは抱けなかった。私は、女性が書く息子から見た“父親像”というものには、どうもなじめないことが多い。この小説はどちらかというと女性の受けのほうがいいのではないだろうか。

正直、今回は好みのテイストではない。
だが、作者の才能は認めざるを得ない作品だ。

あとがきで尾崎翠のことが語られていた。私は読んだことはないのだが、そのうち彼女の作品も読んでみたい。読んでいないため、あとがきで筆者がいわんとしていたことがよくわからないので。
尾崎翠集成あたりからだろうか。

尾崎翠集成〈上〉 (ちくま文庫)

尾崎翠集成〈上〉 (ちくま文庫)

尾崎翠集成〈下〉 (ちくま文庫)

尾崎翠集成〈下〉 (ちくま文庫)