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ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」06

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」05
からの続き

日本版のおまけである折田育造インタビュー、近田春夫×マーティ・フリードマン対談を読む。
これで読了した。
折田インタビューはワーナー、ポリドールの社長にまでなった人なので、
さしさわりのあるコメントは避けたと思われるが、それなりに裏事情、間違いの是正もあり読み応えがあった。

そして、近田×マーティ対談が思いのほかよく、非常によい気分でこの本を読み終えることができた。

私自身は近田の大ファンである。
'70年代に週刊漫画アクションで、近田が連載していた人生相談のコーナーを読んで以来ずっと彼の言動には注目してきた。
その頭の回転の速さ・キレ、しゃれっ気とシーンの中心かつ周縁にいることへの自意識、辛らつでいながら独特の温かみのあるキャラ。
非常に魅力のある人だと思う。ポピュラーミュージックに対して独特の嗅覚もある。
ただ、
キング・クリムゾンに代表されるような小難しい雰囲気をかもし出す音楽を嫌う近田が、
クラウト・ロックを好むジュリアン・コープによる日本の裏ロック史的なものに対しては、否定的、もしくは完全に興味なしという態度を取るのではと思われたので、自分の好きな分野を彼に否定されるのはきついな、などと思いはしたが、どんな風に語るかと興味があった。

そんなこともあり、本編の先に読みたかったのだが、我慢して頁順どおり、最後に読むことにしたのだ。

対談を読むと、この本をしっかり読んだ上で肯定的に評価しているのが、意外でもあり、なるほどと思えるところでもあった。
近田自身はロックの黎明期から音楽活動をしていたので、日本における最大のカルト・バンドのラリーズにしても、実はそんなに遠い存在ではなかったのかもしれない。
なんといってもロックシーン自体が小さなものだったわけだから。
自身の過去を思い起こしながら、ジュリアンの妄想によるロック史を辿っていったのだろう。
そんな意味で楽しめたのかもしれない。

近田、マーティともに間違いだらけの内容をこき下ろすのでなく、その熱意、エネルギーを賞賛していることが妙にうれしかった。
私はジュリアン・コープのファンでもないのだが、多分、私も彼らと同じように著者の熱に感化されてしまっのだろう。

以下、興味深かった点

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内田裕也を慕う近田が、この著書で描かれる内田裕也像について太鼓判を押しているということ。
P374 「このジュリアン・コープっていう人が、自分の嗅覚っていうか直感で気づいたのかどうかは分からないけど、内田裕也さんっていう人の意味合いっていうのに関しては間違ってないと思う。だからどうやって、リアルタイムじゃなくて、そのニュアンスを知ったのかっていうそこがすごい不思議なんだよね。後から調べたんじゃなくて、当時から見てないと分かんない、僕より上の人じゃないと分かんないような感じのニュアンスについても書けてるんです。」

近田も、この著者の着眼点は日本のロック史の空白期を埋めるものであり、現代音楽と日本のロックの関係を書いたものは今までに読んだことがないと語っている。

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読み飛ばすつもりでいたのだが、結局全編読んでしまった。
奇書であることは否定できないが、魅力があり、新たな視点を提示した力作でもあると思う。
この著者の視点を踏まえ、誰か日本人が日本のロックの歴史を俯瞰する仕事をしてくれることを強く望みます。
それとちょっと違うが、現場にいた近田春夫の語る日本のポピュラーミュージックの歴史ってのも読んでみたい。

以下が感想メモ

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー -戦後、日本人がどのようにして独自の音楽を模索してきたか-」01

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー」02

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」03

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」04

ジュリアン・コープ「JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー 」05