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細田守の監督したアニメ映画「おおかみこどもの雨と雪」

おおかみこどもの雨と雪 BD(本編1枚+特典ディスク1枚) [Blu-ray]

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細田守監督作は「時をかける少女」「サマーウォーズ」は見ている。

この映画はなんとなく見そびれていた。
昨年に日本テレビで放送したものを最近になって見た。
興味深い内容だったので感想メモを残す。

見て驚いた。

自分としては衝撃的な作品だった。

見ている間、作品に対する“見るスタンス”をどこにおいて見たらいいのかわからず、ずっととまどいながら見続けることとなった。
この映画、かなりヒットしたようだが、見ている人は「変な映画」と思わなかったのだろうか? あまりそういう評価を読んでいなかったので、それがとても不思議である。

こんな話である。

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一橋大学に通い一人暮らしをする天涯孤独の女子大生が、もぐりで聴講に来ていた男性に一目ぼれ、自らアプローチして恋人となり、結婚する。
だが、その男は絶滅したニオンオオカミの血を引く(?)おおかみおとこだった。
やがて子供が2人生まれるが、生まれた子供は人間とオオカミの血をひく違う異形の生き物だった(物語的にはおおかみこどもとなるのだろうか?)。
そんな中、夫のおおかみおとこは、生まれた子供のために鳥を取ろうとして(?)川に落ちて死亡。
オオカミとなった遺体は、主人公の目の前で、野犬としてゴミ収集車に回収されてしまう。
一方、おおかみこどもの2人の姉弟は、人間の姿をしていたかと思うと、突如、オオカミの姿に姿を変え、走り回るという特異体質。
人間の知能は持っているが、野生の血を抑えることができず、たびたびオオカミに姿を変え、狂ったように走り回る、遠吠えをするなど無軌道な行動を取る。
都会での生活はできないと、主人公は山中の一軒屋を借りてそこで生活をすることになる。
廃屋同然の家を改修、畑を始めるなどするが、生活の苦労が耐えない主人公。
一方、子供たちは自然の中でのびのびと生活、成長していく。
その後、姉弟は小学校に進学するが、オオカミと人間の血を引く特異体質のため、さまざまな困難に直面する。
やがて奔放だった姉はやがてオオカミの一面を抑えて人間として生きていこうとする。
一方、内向的な弟は人間社会より山の社会を選びオオカミとなって母親のもとを去っていく。
長女の姉も中学に進学すると同時に、寮に入り、母の元を去る。
ひとりになった主人公は山中の一軒屋で暮らしている。

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この主人公、苦労の連続だ。
しまいには息子は狼となって家を去り、娘は中学進学で家を出ていく。
子供はいつかは自立していくとはいえ、小学生、中学生で母の元から去っていくのだ。
そして主人公の母は、おそらく30代の前半なのに一人山の中の一軒屋に残されて生きていく。


普通に考えればかなり悲しい話ではあると思うのだが。

主人公は一橋大学に入学できる学力のある女性だ。
そして天涯孤独の身であり、奨学金、アルバイトですべてを賄っている苦労人だ。
しかも一橋を進路として選択したのだから、人文的分野よりも社会にコミットしていく経済学、社会学に興味のあった女性なのだと思う。

世俗的な豊かさや幸せを求めるのであれば、大学でそれなりの成績を修めれば、それなりの企業でそれなりのキャリアを積み、都会で“恵まれた”暮らしを送ることは充分に可能だろう。
しかし、おおかみおとこと会ったばかりに、せっかく入った大学は中退、紆余曲折あって結局、30代前半で山中で一人で暮らすことになる。
悲しいときには「笑顔でいろ」という亡き父の教えを守る主人公があまりに不憫である。

結局、この映画を通して、私には彼女が一体何をしたかったのか、さっぱりわからなかった。

ハリウッド式のドラマはおおむね以下の作りなっている。
主人公が目的を持ち、障害とぶつかりながら、最後に勝利する(敗北する)
そして観客は主人公に感情移入してドキドキハラハラできるようにさまざまな工夫をこらす。

この映画、ハリウッド的ストーリー作りとはまったく違う次元にある作品だった。
主人公をかわいそうとは思うかもしれないが、彼女の行動に感情移入するのは難しい気がする。

音楽の感情操作の力を借りて、感動的な仕上がりにはしていた。
だがラストでの主人公の選択については冷静に考えれば腑に落ちないことが多い。

◆息子はオオカミになって山に去り、娘は人間として生きることを選んだのなら、当初の山中で暮らさなければならない理由はなくなった。わざわざ不便で苦労の多い山暮らしをするのは、自給自足の生活をするのが好きだからなのだろうか? 大好きなおおかみおとこの故郷の面影のある場所で暮らしたいのか?

◆小学校を卒業したばかりの娘を、オオカミニンゲンとばれてしまうリスクのある寮生活を送らせることの理由がわからない。むしろ娘と町で暮らしたほうがよいのではないか?

あまりに気になったのでざっと再見してみた。

確認できたのは
◆主人公は大学にいるときはいつも一人でいたということ。
一人で講義を受け、一人で学食で食べ、彼女の友人は一人も登場しない。

◆主人公はおおかみおとこに一目ぼれして、積極的にアプローチしていたこと。主人公は、おおかみおとこが大好きだった。

◆基本的に描かれているのは別れである。

◆学生時代においていた写真立てには幼い自分と父の写真があったが、
ラストにはおおかみおとこの免許証を、それに相当するものとして置いていた。

◆シーンの切り替えに暗転を多用していることで、内省的なものを感じさせるつくりとなっている。

ということだろうか。

よくわからない映画だが、結論として
■主人公は一人で生きていくタイプの人間である。
■おかみおとこのことが大好きだった。
■生きていくことは辛いことばかり、別ればかりが人生である。
ということになるのだろうか。

奇妙な映画である。

以上の感想メモは作品に関する情報がまったくない状態で一気に書いたものである。
機会があって書籍などを読むことがあれば更新するかもしれない。